2011年7月13日水曜日

東京電力の救済をしないと株主が反乱を起こす

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原発事故の損害賠償に関する公正な処理を求める緊急提言」で、「公正な社会を考える民間フォーラム」が「原子力賠償支援機構法案」を撤回して東電の法的整理を行い、原発災害被害者への賠償責任で東電が負いきれない部分は政府が補償するように主張している。一見もっともそうだが、次の理由で問題が多い。

1. 金融機関の信任を失い、政府の信用が失墜する

3月・4月に政府要請で東電へ資金供給を行っていた金融機関の信任を失う。東電の事業継続を優先させたため、東電債務には暗黙の政府保証が市場にはある。政府系金融機関も緊急融資を行っているのが現状だ。社債価格は大幅に下がったが、まだ値が付いている状態のようだ(日本経済新聞)。これを裏切るべきか否かが問題になる。裏切った場合は、将来の政治主導の企業再編に支障を来たす可能性があるだろう。

2. 株主が「異常に巨大な天災地変」の認定を裁判所に求める

東電を潰すと決めた場合に、株主がどう動くか分からない問題がある。原子力損害賠償法第三条の「異常に巨大な天災地変」を理由に、損害賠償責任が無い事を認めるように裁判所に求める可能性さえある。株主がこの法的権利を行使しだすと政治的に混乱した状態になる。裁判所が「異常に巨大な天災地変」であるか否かを判断する事になるし、被害者への損賠賠償の支払いが滞る事になる。曖昧な条文で判例も何も無い状態なので最高裁まで行くことになれば、5年は時間が経過しかねない。

実際に株主が行動を起こすかは不明だが、株が無価値になるぐらいなら政府と対決する事も辞さない可能性は十分にある。実際にある個人株主は政府の裁量権逸脱を理由に賠償を求める訴訟を起こした(産経ニュース)。

3. 東京電力の破綻は停電と事故処理停止を意味する

東電は追加燃料費と事故処理で膨大なキャッシュフローの流出を続けており、近い将来に資金がショートし破綻する。これが何をもたらすのかは想像に難しくない。取引先や従業員に対して支払いが不可能になって発電も事故処理も停止し、本当に危機的な状況が発生する。

米国で電力会社の経営破綻が発生したときと違い、東電は法的に減免されない可能性の高い莫大な賠償責任を負っている。経営の自由度も極端に無く、破綻後に新たな出資者が現れ速やかに事業を再開できるようには思えない。

4.「公正な社会を考える民間フォーラム」の提案は、社会厚生の低下を招きうる

上述の理由で、政府は金融機関の信任を失う事も、限界まで株主責任を問う事も、そもそも東電を破綻させる事もできなくなっている。「公正な社会を考える民間フォーラム」の提案は、状況を十分に考慮したものだとは言え無いように感じる。

政府と金融機関の不完備契約を履行させず、株主が法的手段に訴える方法を公正な社会と考えているのかも知れないが、文面からはそのような状況を想定しているようには取れない。そして東電の破綻処理において、その事業を継続させる方法については一切考慮されていない。公平かも知れないが、社会厚生は大きく低下しかねない提案だ。

5. 原子力賠償支援機構法案は可決される

原子力賠償支援機構法案は、金融機関と株主に文句を言わせず、東電に発電と事故処理を継続させる数少ない方法だ。自民党も微細な修正で法案に応じる姿勢を見せている(毎日jp)。

実の所は、この法案の成立が不要な方法もある。東電の電力料金引き上げで賠償金額を確保する方法だ。原発を無闇に停止させている為、電気代に燃料代を上乗せをする必要がある。便乗的に賠償のための便乗値上げを黙認すれば、5兆円の売上を誇る東電なら賠償金額の確保も可能だ。要するに独占利潤を賠償に充てる。原子力賠償支援機構法案も賠償原資は電力料金なので、実の所は国民負担はほとんど変わらない。

ただし賠償前に電力料金をあげると、うっかり東電が儲けすぎて美味しい思いをするかも知れない。そういう意味では原子力賠償支援機構法案では、政府が賠償金を立て替えるので東電が不必要な利潤を得ることを防止できる。また東電に特別事業計画を押し付けることで、役員報酬、従業員給与、株主配当を制限し、東電関係者にもペナルティーを与える事もできる。東電関係者が無傷であったら、世論の納得もいかないであろう。厳しい制約条件の中では、そんなに悪い救済策でも無いのかも知れない。

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