2011年6月27日月曜日

孫正義氏のメガソーラー計画は農業利権者と結託する?

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孫正義氏率いる「自然エネルギー協議会」のメガソーラー計画「電田プロジェクト」に、経済学者を自称する池田信夫氏が「農業利権を食い物にするソフトバンク」で難癖をつけている。無理のあるプロジェクトだが、池田氏の難癖の付け方が経済学的では無いので、注釈を入れておきたい。

耕作放棄地(写真, flickrより転載)に対する事実認識に問題があるようだ。

1. 耕作放棄地を無償で使える?

「SBにとっては耕作放棄地を無償で使うことによって用地買収が必要なくなり」と当然のように書いてあるのだが、経済学的には当然ではない。そもそもタダで貸すとは誰も言っていない

地権者がソフトバンクに幾らで貸すかが問題になる。転作・休耕ではなく耕作放棄になっているので、現在の土地からの収益はゼロと見なせる。ソフトバンクが独占事業者であれば、タダ同然の金額で借りることができる。

ソフトバンクは独占事業者になれるのか。それが良く分からない。固定買取制度で確実に利益が出るのであれば、同社以外の参入者が予想される。農家も商売なので、可能な限り地代を取ろうとするはずだ。土地が膨大に余っているので借り手市場かも知れないが、その場合は自由市場で土地代がタダに近いのであるから、何も問題がない。

2. メガソーラーを建てる耕作放棄地はそうはない?

「耕作放棄地が山間部などに点在し、太陽光発電に適した広い土地がほとんどない」と当然のように書いてあるのだが、参加制約は満たしている可能性はある。農地であったので日照条件は最低限は満たしているであろうし、太陽光発電所は小規模な単位から始められるからだ。

東京湾にメガソーラー発電所ができる~川崎市臨海部に8月誕生「浮島太陽光発電所」を見た 」から引用しよう。

パネル1つの出力は198Wで、電圧は25V、電流は約8A。サイズは1,318×1,004mm(縦×横)という仕様

1.3m×1mぐらいが最小必要農地サイズのようだ。面積にすれば0.013aにしか過ぎない。農林水産省によると、平成22年の農家一戸あたりの平均農地は159aだそうだ。耕作放棄地の統計には、5a以上保有している土地持ち非農家か、10a以上保有している農家の耕作放棄地が集計されている。

一般家庭からすれば小さく無いが、パネル自体はそう大きな設備でもない。パワコンや変圧器、送電設備の規模が小さくなるし、僻地で保守作業が難しくなるので効率性は悪いであろう。しかし、発電はできるので買取価格によっては利用できるはずだ。

例え効率性が低く事業者がメガ・ソーラーを始められないとしても、それは事業者の問題であって法的・倫理的な問題があるようには思えない。

3. 農家は何もしないで減反補助金をもらえる?

「農家にとっては、何も仕事をしないで減反補助金がもらえる現状が最高」と当然のように書いてあるのだが、実態とは状況が異なる。

現状の制度では転作が奨励されている。休耕田で補助金をもらうには、費用がかかる農作業をする必要がある(減反の風景)。さらに大半の耕作放棄地は原野化しており、補助金の対象ではない。

耕作放棄地は、農業従事者の不在が主たるその理由だそうで(耕作放棄地の現状)、「利権」とは程遠い存在だ。むしろ調整水田や転作田には大量に補助金が投入されているのだが、こちらはメガソーラーに転用する事はできない。

4. 耕作放棄地は利用されることが望ましい

補助金等無しで損益分岐点を超えていればではあるが、利用されていない資源は利用されるほうが望ましい。もし「再生可能エネルギー促進法」無しでも「電田プロジェクト」が成立するのであれば、資源の有効活用と言う面で素晴らしい。

農業政策が不適当だから耕作放棄地があると言う指摘は恐らく正しいが、電田プロジェクトの社会的意義には関係ない。電田プロジェクトがあろうが無かろうが、農業政策はあるからだ。電田プロジェクトのために、休耕田や耕作放棄地を維持・作成しだしたら問題だが、休耕田や耕作放棄地があるから電田プロジェクトを考えたのは間違いない。

5. 問題は再生可能エネルギー促進法

池田氏は「農業利権を温存する」とあるので、耕作放棄地にメガ・ソーラーを作れば、農地の有効利用になるので現状の農業政策が維持されると主張しているようだ。しかし、耕作放棄地は補助金等とは関係の無い領域にあるように思えるし、有効利用するのは悪い話ではない。

農業政策に問題が無いとは思わないが、やはり問題は再生可能エネルギー促進法にあるように思える。固定買取価格が40円/kWhでなく、例えば8円/kWhであれば、耕作放棄地の利用は望ましいだろう。農地登録のまま耕作放棄地をメガソーラーにしておいて良いのかは議論があるであろうが、相続税の猶予措置以上の利権があるのかは不明だ。

電田プロジェクトの遊休資産を活かそうという方針自体は悪くないように思える。ただし、それが社会的余剰を増加するのはメガ・ソーラーのコストが十分に安いことが条件になるので、今のコストでは有益ではない。

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