航空旅客が一般的になって、飛行機が飛ぶことに違和感を感じる人はほとんどいなくなったと思う。しかし、飛行機がどのように飛んでいるのかを知っている人は、そんなにはいないはずだ。航空機の運行に関わらない大半の人に必要性は無いので今後も増えるとは思わないが、手ごろに説明してくれる良い本が出ていた。『航空力学「超」入門』は、副題にある飛行の原理に科学で迫ると言った本では無いが*1、縦士や機関士が使っていそうな単語の意味や、共通理解としていそうな簡単な微積分が入る程度の計算式を*2、図つきで丁寧に説明していく本だ。JALの航空実用辞典と似た内容になっている。
構成は単語集のようになっているのだが、順番に読んでいくと揚力や各種抗力などの空力の説明から、プロペラの回転などによる機体の安定性を損なうモーメントや、それを予防する設計の説明をしているので、全体としてはそうバラバラな印象は受けない。最後の第6章「空を飛ぶ性能」が燃費計算と離陸から着陸までの話になっていて締めくくっている。通して読み終えれば、真大気測度やマッハ数といった計測単位から、飛行中の航空機にかかる各種の力のつり合いまで知ることができる。垂直尾翼の機能を説明できない人、速度が上がると誘導抗力を減らせる一方で、有害抗力(形状抗力、干渉抗力、造波抗力)はどんどん増えていく理由*3が説明できない人は、読むと学ぶ事が多いであろう。
学んでどうなると思うかも知れないが、色々な物理的制約に縛られて飛行機が空を飛んでいる事が分かることで、航空機に乗ったりフライトシミュレーターで遊んだりするときにより楽しくはなるし、ネット界隈の誰かのように技術的にトンデモを言う前にちょっと調べて裏を取る習慣がつくかも知れない。技術的に十分進んだ現代社会の複雑さは、やはり技術的なところを色々と確認してみないと実感が沸かないであろう。この本を読んでから操縦と管制の本*4を読めば、航空旅客がどういう原理とオペレーションに支えられているのか、より理解が進むと思う。そして、こんなに色々な配慮の上に成り立っている産業が、なぜロストバゲッジやオーバーブッキングの問題を解決できていないのか、より深く悩めるはずだ。
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