2022年7月5日火曜日

幸福追求のための表現の自由を政治家に説明して認めていただくのは議会制民主主義では当然

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中の人が大学教員と言う墨東公安委員会氏が、表現の自由に対する自身の立場を長々と宣言した後、表現の自由戦士がアニメやマンガの擁護ではなく、同士との連帯感や承認欲求を求めて表現規制派フェミニストを非難していると主張している*1

マンガ家で参院選候補者の赤松健氏の昔のツイートの「自民党に頭を下げて、話を聞いてもらわなくては」が気に入らなかったようだ。しかし、オタクの皆さんの危惧を矮小化しすぎだし、議会制民主主義を甘く見すぎである。

詳しく指摘すると、墨東公安委員会氏は、

  1. 議会制民主主義では、自らの権利を確保・維持していくために、議員の皆様に考えを説明して認めていただくのは必然的に生じる行為であること
  2. エロ可愛い少女の絵を頒布しないと意見を主張できないとはまずならないわけで、アニメやマンガの表現規制の現状の議論は、言論の自由と言うよりは幸福追求権の問題と考えた方が適切であること
  3. 科学的根拠*2、道徳的根拠*3を探してきて表現物の害悪を唱える人々がいるので、幸福追求のための表現の自由もその範囲を政治的に調整すべき対象になっていること
  4. 表現規制派フェミニストの示す論拠が十分とは言えず*4反感を買っていること
  5. 萌え絵不寛容派の目に入る広告にある表現物が話題になることが多いが、『幸色のワンルーム』の地上波放送や、人工知能学会の学会誌のアンドロイドのイラストなど、広告以外が議論になることもあること
  6. オタク文化愛好者としてより国会議員の方が、野党としてよりは与党議員としての方が、より政治的影響力を持てる*5ので、幸福追求権の保持の観点から山田・赤松支持には合理性が認められること

を見落としている。

表現規制強化の動きが常日頃あるのは確かで、剽窃事件の前は官公庁の会議によく出ていた渡辺真由子氏のように明確に訴えている人もいる*6。2010年の石原都政での漫画やアニメの性的表現を規制する「青少年健全育成条例」一部改定され、2013年には漫画・アニメなど創作作品の規制につながりうる「調査研究」も行うことが明文化された児童ポルノ禁止法改定案が自民、公明、日本維新の会の3党共同提案で国会に提出され可決している。2022年も国会の法務委員会に非実在児童ポルノの禁止を求める請願が出されている。山田太郎参院議員の話によると、表現規制の強化を求める外圧は現在もあるそうだ。幸福追求のための表現の自由はぼっとしていると侵害される。

一部の表現の自由戦士の言動はバランスが悪いと言うか、表現規制派フェミニストを非難することに注力し、誤謬推理になっている理屈を並べつつ、さらに偽旗工作を試みるなどする、大規模掲示板の煽り合い文化に沿った非難を繰り広げても、政治的に良い結果は得られるとは思えない*7が、彼らの懸念がおかしいとは言えないし、表現規制の強化を避けるために山田太郎氏に続いて赤松氏を参院に送り込もうというのは、議会制民主主義における幸福追及の努力としては模範的な方法だ。

*1チンドン屋たちの暴走 SNS時代の「オタク」と表現の自由、赤松健氏の出馬について : 筆不精者の雑彙

*2ノルウェーでのブロードバンドのインターネット接続普及が、ポルノ視聴を通じて性的暴行発生率を引き上げたという研究があったりする(関連記事:ノルウェーではポルノ視聴が性犯罪を増やした論文の問題点)。また、セクシー化された女性表現が少女に悪影響を及ぼしうるという心理学研究もある(関連記事:エロ可愛い格好をしている女の子は、頭が悪くなっている)。これらの研究に弱点が無いとは言えないのだが、懸念は何も無いとは言えない。

*3アメリカでは表現の自由が優先される傾向があるが、欧州(と言うかドイツ)では尊厳が優先され政治家の風刺画が規制されたりする。1987年にドイツ連邦憲法裁判所は、著名政治家(CSUのフレンツ・ヨーゼフ・シュトラウス)を交尾中の豚として描いた風刺雑誌に、政治家から人間の尊厳を奪う意図があるとして、有罪判決を下した(『尊厳 — その歴史と意味』pp.96–97)。

*4関連記事:過去のフェミニズムの議論からは、性的モノ化された萌え絵が有害の可能性は低い

*5公明党が自民党に協力するようになった事から分かる。自民党議員の大半を説得できる見込みがあるのであれば、自民党議員として活動するのが現実的である。山際大志郎経済再生担当相の「野党の人から来る話は、われわれ政府は何一つ聞かない」と言う選挙トークなのか本音なのか判別のつかない話もある。

*6関連記事:渡辺真由子のマンガ・アニメ・ゲーム内の性的描写規制論を振り返る

*7VTuber戸定梨香の騒動に関して、表現の自由戦士はフェミ議連の抗議文を人権侵害のように非難してきて、表現の自由戦士界隈ではコンセンサスがある意見のように見えたが、表現の自由戦士が松戸市議会に出した令和3年度請願第5号「交通安全運動に協力した松戸市民が受けた人権侵害に関する取り組みを求める請願」が全会一致で否決された(関連記事:VTuber(の中の人)への人権侵害に関する松戸市議会への請願とネット論客の一貫性)。

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