2019年11月24日日曜日

“GSOMIA終了の通告停止”でわかる文在寅政権の振り上げた拳の下ろし方

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外交では国際儀礼が重視されるしやり取りも慎重に行われることが多いが、行き当たりばったりで自滅しても、うまく無かったことにする豪腕もいる。韓国の文在寅政権にも、そういう人がいるようだ。物議を醸している“GSOMIA終了の通告停止”は、意外に上手い方便になっている。むしろ、その意図が見えてくると、延長ではなく、終了の通告停止と言う二重否定の冗長さが最高に思えてくるぐらいだ。

1.“GSOMIA終了の通告停止”までの経緯

文在寅政権になってから、日本が要望した輸出管理に関わる協議に韓国政府が応じなかったことを理由に、日本政府は大韓民国向け輸出管理の運用の見直しを宣言した。日本の輸出管理は日本の専権事項なので、日韓の連携を密にして韓国の輸出入管理を強化するのが筋になるはずだが、ここで文在寅政権はこれを徴用工問題への報復と捉え、対抗措置として日韓秘密軍事情報保護協定(日韓GSOMIA)を延長しない方針を打ち出す。

安全保障分野の問題を拡大するのは悪手だった。米国の東アジアの安全保障戦略にコミットしない事になってしまうし、日米韓の連携が深化していないことは、中露朝が軍事行動に出やすくする。仮想敵国に隣接しているのは韓国であり、有事を考えれば韓国の方が損になりかねない。2016年までGSOMIAは無かったとは言え、中国と北朝鮮の脅威の増加にあわせて、こちら側もレベルを上げていく必要がある。GSOMIAの次の段階になる連携強化、物品・役務を相互に提供する際の決済手続等の枠組みを定める物品役務相互提供協定(ACSA)の話も、GSOMIAの延長停止で止まってしまう。どこに行きたいのか文在寅。米国の圧力も当然であった。

2.“GSOMIA終了の通告停止”のうまさ

外交・防衛における問題を認識した結果、文在寅政権は“GSOMIA終了の通告停止”を日本に行うわけだが、ここからの方便がなかなか上手い。嘘とも断定できない範囲の表現で文在寅政権の面子を保ちつつ、GSOMIAの問題を今後考えなくてよいようにしている

世界貿易機関(WTO)への提訴をせず、日本側が求めていた輸出管理に関する話し合いに応じる上に、現時点の報道ではGSOMIA破棄の凍結は1年ごとに見直しで、1年ごとに更新を行う*1今までと何ら変わらない全面敗北に近い状況なのだが、対韓輸出規制緩和に向けた協議を開始し、協議決裂の場合はGSOMIAを破棄すると言い出した。ネット界隈ではまたまた御冗談を…と言う反応が多いが、話し合いを通じて、韓国政府が輸出管理の実効能力を強化し、日本政府からの問い合わせに対して迅速に情報を提供する体制を構築すれば、日本政府はキャッチオール規制のグループA(従来の制度でのホワイト国)に韓国を分類せざるをえない。そして、話し合いを続ければ、それが不調であってもGSOMIAを延長し続けることができる。誰の案かは分からないが、2日間、缶詰になって相談していたのであろう。

有権者、とくに与党支持者の意向と異なる決断なので、韓国メディアが上手く騙されてくれるのかが問題になるが、最近の韓国政治の傾向からすると、対日政策によって政権支持率が上下する程度は大きくない。ここまで考え抜けるのに、最初の一手が無考えなのが残念なところである。

*1「韓国政府は、一時「3カ月」などの期限を定め、輸出規制が解除されなければ再びGSOMIAを終了させる案を検討していたが、放棄した」そうだ(「日本と対話」という名分は得たけれど…自ら原則崩してWTO提訴を停止-Chosun online 朝鮮日報)。

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