2018年5月5日土曜日

山口二郎の科研費について杉田水脈に踊らされる前に知っておくべきこと

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杉田水脈衆院議員が、政治学者の山口二郎氏が過去に10名を超えるグループの研究代表者として10年で累計6億円の科学研究費を取っていた事を示唆し、ちょっとした騒動になっている。杉田氏はこの金額が妥当ではないと言いたいようだが、その弁に煽られるのは問題だ。金額だけで是非を判断する事はできないし、科研費は研究計画書に基づいて文科省が採択し、その支出は厳しく管理され研究に関係の無いことへの支出は許してくれない。研究に関係ある事にも支出させてくれないと言う愚痴すらある。

1. 科研費の使途は厳しく管理されている

科研費は文科省が出している研究資金で、文科省の規約にしたがって大学事務等の研究者の所属機関が使途を管理している。過去に色々と不正があったために年々と利用ルールが厳しくなっており、今ではもっとも扱いづらい研究資金の一つとさえ言えるであろう。飛行機の半券や物品の領収書を取る事は勿論、出張先での宿泊料などの上限なども所属機関に応じて定められている(科研費FAQ)。さらに、不正防止のためか各大学が文科省の規約よりもルールを厳しくしてしまっている事も多い。例えば学会費は研究に必要であれば科研費で出せるが、大学ルールでは認めない事例も多いようだ。

2. 桁違いに大きな金額とも言えない

累計で億を超える金額に驚いた人もいるかも知れないが、複数年で複数人で予算獲得していることには注意して欲しい。生命科学分野の単年度よりも多いと言う非難があるが、比較にならない。「グローバリゼーション時代におけるガバナンスの変容に関する比較研究」は学術創成研究費で5年間13名*1で4億4577万円と大目ではあるが、国際カンファレンスを開いたり、リサーチアシスタントを雇ったり、在外研究をすればあっさり消える。「政権交代の比較研究と民主政治の可能性に関する考察」は、5年間16名で約4500万円で、1人年間56万円ちょっとに過ぎない。国内外の研究会に参加すればあっと言う間に消えてしまう程度の資金だ。

費用対効果の効果についても議論はあるだろうが、国内外の学術雑誌に論文が掲載されているようだ。政治学に詳しい人から中身がしょぼいと言う批判はあるかも知れないが、それは研究失敗なだけで不正にはならない。

3. 科研費に関して国会質問もできる

杉田議員がソーシャルネットワークで疑念を述べたカタチで、この議論を放置するかは注目したい。科研費は文科省の予算なのだから、国会でその振り分けルールについて議論していけない理屈は無い。特に4億4577万円の方は社会科学分野としては額が大きい。今までも厳しくやっているので、これで学術研究が萎縮する事も無いであろう。杉田議員は言い出したのだから、その議員としての権限を行使して国会で問題の有無を明らかにすべきだ。それが出来ないのであれば、単なる学者への威圧行為として非難されるべきである。山口二郎氏が参考人として国会に呼び出され、そこで自身の研究成果として安倍総理の批判を始めるような展開を期待しながら、杉田議員の次の一手に期待したい。

ところで安倍政権を悪く言うのがライフワークになっている気がする山口二郎氏も、裏では政治研究をしていた事に衝撃を受けた(;´Д`)ハァハァ

追記(2018/05/06 20:35):遠藤乾研究室 科学研究費についていくつか』で、大型科研「グローバリゼーション時代におけるガバナンスの変容に関する比較研究」の思い出と言うか、どのような事をしていたのか紹介されていた。

*1科研データベースでは6名しかリストされていなかったが、同プロジェクトのウェブサイトを見ると当初13名で開始とあった。

1 コメント:

Unknown さんのコメント...

Twitterからこの記事にたどり着きましたが、仰ることでほぼ尽きていると思います。

科研費叩きに便乗参加している方々は、科研費の制度や山口氏のプロジェクトに関する事実はどうでもよくて、ただただ相手を不快にすることを喜んでいるだけのように見えますね。これに対して研究者がTwitterのようなメディアで中途半端に反論を展開しても無駄だし、はっきり言ってこのやり取りをやめるべきだと研究者の端くれである私は感じました。

問題の杉田議員は、今頃『科研費の獲り方』なる本で勉強しているらしいですが、あれは見栄え良くインパクトのある研究計画書をどう作るかというノウハウ本であって、審査体制や執行ルールの詳細については全然別の角度から情報を集めないといけません。自分からこぶしを振り上げて、今更そんなことすらわかっていないとはあきれるほかない。

なお、日本学術振興会には研究不正の告発窓口がありますが、「悪意ある告発」は逆に刑事告発の対象になり得ると警告されています。納税者の権利を振りかざして好き放題言っている方々は、多分このこともご存じないでしょう。しかし、親切に教えてあげる気も起りません。

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