2018年4月1日日曜日

書評: エグゼクティブの為の初めてのAI

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人気データサイエンティストのTJOこと尾崎隆氏が、「エグゼクティブの為の初めてのAI」と言う渾身の一冊を書きあげたので、内容を紹介したい。人工知能と題されてはいるが、役員や部長などのマネジメント層向けの機械学習を応用するデータサイエンス本となっている。

本書は、第2章までは真摯に人工知能と機械学習を説明しようと努力しており、類書と大差が無く、悪く言えば凡庸である。しかし、第3章からはスリリングな内容が展開される。曰く、人工知能もエンジニアも小難しくはなく、ブラックボックスに思えるのはエグゼクティブの不勉強の一言に尽きる。熱心に小中学生に国語教育を行っても、中年マネジメントになったときのやる気は喚起されない。鉄腕アトムやドラえもんと言った漫画以上の知識を得る気がなければ、大金を積んでも適切な利用方針を指示できない。衝撃的な主張ではあるが、近年のデータサイエンティスト・ブーム以前のデータウェアハウス・ブームでもよく見られた光景であり、ベテランのエンジニアであれば共感できる事は多いであろう。

本筋以外のコラムも際立っている。氏が多かれ少なかれ関わった人物を反面教師として、あるべきデータ・サイエンスが描き出されている。前々職の上司の学習意欲の無さが非難されると、堰を切ったようにマネジメント層の無能ぶりが指摘されていく。非難されるのは、マネジメント層だけではない。意識が高すぎてライブラリやフレームワークを敬遠し、数値演算を間違っていた元同僚などにも、その怒りは向けられていく。前々々職の元同僚でもない後輩女性が業績目的にデータをでっち上げた話にややページ数が割かれすぎな気がしなくもないが、分析するデータがゴミの場合はゴミな結果しかでないと言うガーベッジ・イン・ガーベッジ・アウトはもっとも重要な戒めである。

データサイエンティストの人格に疑いを持ちそうな一冊ではあるが、書かれていることは概ね正論であり、これからデータサイエンスに取り組もうとする人々全てに一読の価値があるものとなっている。ただし、瑕疵が無いわけではない。各章が「なぜ~のか」というリサーチ・クエッションを立てている一方で、それに対して著者の個人的経験をもとに解が与えられており、データサイエンスを駆使した答えが示されていない。紺屋の白袴感がある。そして、何よりもエイプリル・フールのネタであり、決して公刊されないところが残念の極みであった。

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