2017年10月21日土曜日

就業者数の減少を伴う完全失業率の低下は、景気の悪化と言えるのか?

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ネット界隈のリフレ派では、2003年からのと2009年からの景気回復期で、就業意欲喪失効果で非労働力人口が増えており、完全失業率の改善はまやかしで、有効求人倍率の改善に関わらず雇用が悪化していたと言う説がよく唱えられている。

言いたい事がわからなくは無いのだが、雇用が悪化と解釈すると、有効求人倍率と完全失業率が徐々に回復して来なくても、2005年や2012年に就業意欲喪失者がぞろぞろ労働市場に出てきたのかと言う疑問が出てくる。就業者数の減少を伴う有効求人倍率や完全失業率の改善なくして、景気回復はあり得たのであろうか?

1. 就業意欲喪失効果は、労働市場での競合を嫌うので起きる

就業意欲喪失効果の説明によれば、求職活動をしても求人が無い失業者が、労働市場から離脱するとされる。無業者で本当は何か職が欲しいのではあるが、「低い有効求人倍率、高い完全失業率のときには、他の失業者の仕事が決まらないと自分の番が回って来ない」と最初から認識しているか、求職活動をして学習し、雇用市場から離脱する人が就業意欲喪失者だ。就業意欲喪失効果を決定するのは、求人数と競合する他の求職者と言うことになる。

2. 労働市場の競合は、水準ではなく変化率に作用する

労働市場の競合が、就業意欲を喪失させた場合の労働市場の状態を整理しよう。毎期、労働人口は新卒や定年、病気や出産・育児での出入りなどにより入れ替わっていく。就業意欲喪失効果は、参入者には影響するが、職を維持する人や退出者には影響しないので、労働人口の変化率に作用する事になる。よって、非労働人口率の増加率は、労働市場の競合で減少する。

3. 変化率に作用する場合、水準の動きは遅れて生じる

不況から好況に転じて、労働市場の競合が変化していくときの就業者数の水準は多少、複雑な動きになる。つまり、求人数が増えて労働市場の競合が緩やかになっていっても、労働人口の減少幅が小さくなるだけで、労働人口の水準はやはり下落する期間が出てくる。下落幅が小さくなっていって、最後に増加に転じるはずだ。なお、増加の動きも加速するはずだが、そのときまで溜まった就業意欲喪失者の数が限度になるので、影響は減退していくと考えられる。

追記(2017/10/24 16:01):差分と水準に相関があるわけで、例えるならば、右にハンドルを切って進んでいた車のハンドルを左に回したとして、左に進み出すまではちょっとラグがあると言うような、動きに遅れが出る関係と言える。

4. 競合度が下がると、非労働人口の増加率は減少する

実際のデータで検証してみよう。労働人口の上昇率を見るが、労働人口は生産年齢の男性の人口とする。女性の就業意欲が増してきているのか、少子高齢化による介護サービス需要に支えられてか、女性の労働力人口は好不況に関わらず増加ペースにあるので、景気指標として向かないと考えられるからだ。また高齢者の就業率も、景気循環に関わらない動きがあるような動きをしている。就業意欲を決定する労働市場の競合度の代理変数として、求人数を応募数で割った、求人倍率を用いる。

有効求人倍率が、非労働人口の変化率と緩くだが相関していることが分かる。つまり、有効求人倍率の改善が無ければ、就業意欲喪失効果の低減もなく労働人口や就業者数の増加も無いであろう。

5. 完全失業率も、労働市場での競合の代理変数になる

完全失業率は労働市場の競合度を直接示すわけではないが、分母の大部分になる就業者数に比例してジョブ・スロットが空くと考えれば、競合度の代理変数になっている。実際、完全失業率と有効求人倍率はよく連動する。また、有効求人倍率が公共職業安定所を通じた求人・求職に限られる一方で、完全失業率は網羅的な世帯調査となっている。世の中全体の求職活動の難易度の代理変数だと考えても良いであろう。なお、非労働力人口率の変化率に、緩い相関は観察できた。

6. 今の好雇用は、民主党時代の雇用指標の回復とつながっている

ネット界隈のリフレ派の皆様は、民主党政権時の雇用環境と、その後の安倍政権の雇用環境を断続的なものだと見なそうと努力しているわけだが、一見断続的な指標であっても、しっかり繋がっている。景気が底をうってから、雇用量が一度縮んで、また膨らむと言うのは、非直観的な動きではあるが。

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