2017年8月13日日曜日

政党観の前に“リベラル”の意味が世代ごとに異なる

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2017年8月11日の読売新聞の『政党観 世代で「断層」』と言う記事が話題になっていた*1。曰く、若年世代にとっては公明・共産が「保守」で、維新が「リベラル」であるそうだ。これは高知大学の遠藤晶久氏と読売新聞の共同調査なのだが、予備調査として行なわれたアンケート調査*2の結果を見る限り、かなり危ういものとなっている。集計データしか示されていないのではっきりは言えないが、政党観の前に“リベラル”の意味が世代ごとに異なる可能性が高い。

予備調査には、保守革新/保守リベラル/右左の3種類の10段階指標で、自分を評価してもらう質問が入っている。革新=リベラル=左の意味であれば、この自己評価は同じスコアが並び、差を取ったらゼロになる。分布なので、個々では差があるものの、平均値では差が相殺されてしまう場合もありえるが、平均値に差がある場合は違う指標であると見なされている事がわかる。また、年代ごとに差の大小があれば、意味の違いの程度が異なるとも考えられる。

上の図は予備調査の平均値データの差をとってみたものだが、革新とリベラルと左は同じものだと見なす事ができないし、その関係は大きく変わる。10歳差で最大0.5ポイントぐらい動くわけだが、読売新聞の記事の政党評価の変動も最大で0.5ポイントぐらいである。分布が分からず検定ができないので目視で判断するが、20歳代はリベラルと左が同一視されているが、革新は似ているが別物だと考えられている。30歳、40歳代では革新とリベラルが同一視されている一方、左は別の概念である。50歳代は三者が概ね一致するようだ。60歳代になると三つの意味がそれぞれ別となる。なお、観測数は、20歳代が596人、30歳代が936人、40歳代が641人、50歳代が635人、60歳代が554人とそれなりにある。

インターネットを使った予備調査の結果なので、この年代別傾向が日本人全体を代表しているとは言えないであろう。しかし、個々の日本人が革新/リベラル/左の概念を分けて考えており、その違いが年代ごとに異なる蓋然性は高いと言える。著者は予備調査の説明では、先行研究をひいて「年齢によって保革イデオロギー理解が異なる」ことに言及しつつも、この可能性に無頓着だったので、読売新聞との共同調査でも無頓着である可能性は低くは無い。一般誌で紹介するには、ちょっと危ない調査結果かも知れない。

*1肯定的に捉えられているわけではない。

*2遠藤・ジョウ (2015)「イデオロギーラベル理解の世代差に関する実験的検証」早稲田大学現代政治経済研究所 Working Paper Series, No.J1402

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