2017年3月24日金曜日

キミはFTPLが苦手なエコノミストなんだね!

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エコノミストの安達誠司氏が『「シムズ理論」が日本経済のデフレ脱却に有効である理由』と言うエッセイを書いているのだが、あまりFTPLを理解していないようなので突っ込んでおきたい。数理モデルを確認せずにその解説文をつなぎ合わせてFTPLを理解しようとして、失敗した気がする。

1. 頑張ってFTPLを説明する必要は無い

将来、ガンガンと増税してくると思われているから物価が上がらないので、そこそこしか増税しないと思わせたら物価が上がると言うのがシムズ教授の提言*1。シムズ教授はマクロ経済学の文脈でコレを言うために、政府と家計の予算制約式と横断条件から物価水準を決定する理論モデル(FTPL)を持ち出し、政府純負債の実質価値と財政余剰(=財政黒字+通貨発行益)の現在割引価値の予測値が一致するように物価水準が定まることを確認しているのだが、シムズ提言だけに関心があるのであれば割愛しても問題ないであろう。

2. 知っておくべきFTPLの特徴

それでもFTPLを知りたいと言うのであれば、せっせと数理モデルを読んでいこう。それが嫌な場合は、基本的なモデルではかなり非直観的な話になっている事は心にとめておいて欲しい。あれこれ薀蓄を語るエコノミストの文*3を読む前に、

  1. 財政余剰と金利(or 通貨供給量)と物価の関係を見る理論モデルで、特定の政策セットを意味するものではない
  2. 生産も消費も一定を仮定
  3. 将来の財政見通しが変化すると、最初にどーんと物価水準が変化した後、一定のインフレ率が続く
  4. (基本的な仮定では)名目金利を上げるとインフレ率が上昇し、物価水準も上昇する
  5. 財政余剰の現在割引価値の期待値がゼロ以下になったら、解が無くなってゲームオーバー

の5点は覚えておこう。以前のエントリーで指摘した部分も多いのだが、安達氏の今回のエッセイでもこの五点を踏まえていない。日本語でも説明が色々ある数理モデルで、各所の説明をチマチマと見ていたらすぐ気づくはずなのだが。

安達氏は、また、財政余剰の現在割引価値の予測を下げろと言っているシムズ提案を、財政余剰の現在割引価値を下げろと誤解している。こちらもリカード型/非リカード型財政政策の議論を注意深く読めば、そう誤解しないと思う。

リフレ派今まで主張してきた話とFTPLの整合性を取ろうとしているのだと思うが、一筋縄では行かないモデルの変更が要る。FTPLを特定の政策セットのような言い方をして世間に誤解をばら撒くと公害なので、下手にシムズ御大に迎合するのではなく「金利を上げたらインフレになるFTPLなど信じない」ぐらいの強気な姿勢で行って欲しかった。

*1関連記事:シムズ式脱デフレ策はリフレ派のそれとは随分異なる

*2名目金利ゼロで無限大の貨幣需要になる実質貨幣需要関数を仮定すれば、名目金利をゼロに近づけることで貨幣発行益を無限大に増やす事ができるので、財政余剰の現在割引価値の期待値を常にゼロより大きくすることができる。ただし、民間保有国債を買い切った上に中央銀行が民間に融資して回って利子を得るような世界になる。

*3数式がほぼないもので『シムズの物価の財政理論(FTPL)と財政再建|東京財団 税・社会保障調査会』、数理モデルが説明されているもので河越・広瀬(2003)があるわけで、証券会社のエコノミストが解説する必要があるのかは謎である。

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