2017年3月3日金曜日

不変量とはなにか―現代数学のこころ

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結局は証明しないと始まらない数学は、一般書の題材に向かない分野であると思う。最後はやはり「教科書を読め」になってしまうのだが、それでも何だか面白い紹介本はある。2002年に出た「不変量とはなにか―現代数学のこころ」もそういう類の本で、2013年にちくま学芸文庫で「不変量と対称性」と書名を少し変えて改訂新版が出ている。偶然、古い版を手にとったのだが、内容はそうは変わらないと思うので紹介したい。有名な定理の名前を掲げているわけではないのだが、数歩先の数学の切り口が見えるワクワク感がある中身だと思う。

1. 聞きなれないであろう不変量と言う概念

大学の一般教養の数学までは、不変量と言う概念は出てこない。線形代数の行列式の計算で対称群は出てくるが、機械的に使うので不変量としては認識しない。不変量と言われたら、数字一つで構成されると思うであろうし。だから不変量と言われても、理系でしかも数学をガリガリ使わない分野の人には、まず「何それ?」と言う感想を抱き、次に「そういう世界もあるのですね(自分には関係ない)」と言うのが関の山だ。しかし、数学に慣れていない人はこういう感じで親近感を感じないであろうと思うが、鏡像や15パズルのような一見平易な問題を新奇に見える切り口で捉えていくと言う意味で、面白く感じる面はあると思う。また、聞きなれない不変量と言う切り口だが、中で取り上げられているトピックは、そう変なモノではない。

2. 意外に広い範囲の数学で不変量を考えられる

群は数学はもちろん物理分野でも使う概念だし、体も符号理論などでも出てくる。オイラー数は情報工学を学べばグラフ理論でお世話になるし、モジュライ空間は楕円函数を学べば出てくる。不勉強なのでジョーンズ多項式がどの分野で世話になるものかは定かではないが、数学をガリガリ使う理系の人にはコレやったわー・・・と言うモノで構成されているはずだ。それでも教科書とは別の素材で説明がついていて面白く感じると思う。私は第7章で三角形の類型を示す不変量の集合としてモジュライ空間を構成する話が、モジュラー群の簡単な例を知りたかったので、特にいけていた*1

3. 読み飛ばさないと難易度は高いかも知れない

位置づけとしては、理系学部の一年生向けなのだと思う。しかし、難易度は読み飛ばさないと高いだろうなと思うところがちょくちょくある。例えば、二次元のオイラー数の話で接ベクトルと言う概念が特段の説明なく使われるし、cos(2π/17)を平方根を使った式で表す事ができても、それが図示可能であることは別に説明は無い。四則演算とルートは定規とコンパスでつくれるから、ルートの入れ籠で式が書ければ云々と言う説明が欲しかった。リーマン球面や交替群など説明はされているが、やはり知識がある方が読みやすい概念も多い。神経質な人は、分からない概念をネットで検索しながら読み進めるしかないであろう。また、新書であって教科書ではなく、証明ではなく紹介なので、もやもや感が残るかも知れない。

4. めとめ

数学や物理を専攻する予定の人は、さらっと読んでおいて損は無いと思う。「良く分からないな~」と言うところは残っても、大学で学ぶ先の数学が見えればよい。詳しいことは、数学の教科書を読んでいけば、いつかそのうち繋がるモノであろう。実験中心の生活をする予定の学生や、社会科学分野の学生が読むべき本かはちょっと分からないのだが、ちょっと分野外の読み物が欲しいときにはお勧めできると思う。なお、旧版は著者の一人のページに正誤表が出ているので、当たり前だが改訂新版の方を読む方がよいようだ。目次を見ると1章と2章が入れ替わっており、6章の題名が変わっていた。

*1数学徒には良く知られた例かも知れない。

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