2017年2月15日水曜日

消費増税後も家計消費はある意味低迷していなかった

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ネット界隈ではもちろん、メディアにおいても2014年の消費増税後に消費低迷が言わるようになって久しい。家計調査や商業動態統計では確かに低迷しているし、半年前までのGDP統計でも家計消費支出は低迷していた。しかし、増税による不景気が生じたはずなのに完全失業率は低下していき、雇用者報酬も増加した*1。消費と雇用に齟齬が生じていたわけで、これが一つの謎であった。だが、少子高齢化で医療や介護サービスへの需要が増えている事に気づくと、このパズルはあっさり解ける。

現代日本人は、財布の中からお金を出すモノだけを消費するわけではない。現物社会移転と言う分類になる公的補助があるので、医療や介護サービスは利用時の自己負担比率が低く、逆に社会保険料や税でその原資が徴収され、他の消費を圧迫している。これが少子高齢化で年々増加しているので、家計消費支出だけを見ていると、消費の傾向を見誤る事になる。

実際に現物社会移転が合算された現実家計最終消費の推移を確認してみよう。2014年の消費増税後の家計消費支出を見ると、駆け込み需要が起きる前の2012年度と大差ないという意味でイマイチなのは確かだけれども、医療や介護サービスなどの現物社会移転支出の政府負担分まで含めた現実家計最終消費まで入れると上昇基調にある。消費する財の種類が変わっただけで、消費自体が低迷しているとまでは言えない*2

消費と雇用のパズルもあっさり解ける。医療や介護サービスなどの現物社会移転支出の伸びが大きいのは、年平均値でみた2012年から2016年までの雇用増170万人の中身を見ると福祉・医療が102万人と過半になっているのと整合的だ。消費増税前の駆け込み需要の影響で判別しづらいのではあるが、家計消費に影響しているのは日本経済の構造転換であって増税の影響ではない。何かと話題になる「若者の○○離れ」も大抵は若年人口の減少が原因だ。20代の人口は、1996年が1913万人、2016年は1269万人と、20年間で34%減になっている*3

そもそも消費減税が行なわれる可能性はほとんど無いのだから、消費者には買い控えると言うインセンティブは消費増税では生じない。所得が減って消費に影響しそうな気がするが*4、医療や介護サービスの現物給付として移転されているわけで、長期的には家計負担が増えているとも言えない。実際、1997年の消費増税後、アジア通貨危機などもあり1998年、1999年と経済低迷したが、失業率の急騰にも関わらず、家計消費支出も現実家計消費も増加している。

追記(2017/02/16 11:37):現物社会移転受取を加える理由が分からない、現物社会移転だけ足すのは恣意的と言うコメントがついていたのだが、もし公的社会保険がなければ民間保険会社に保険料として支払われていたはずの金額になるので、その性質は消費に近いことに注意されたい。

*1関連記事:消費税率引き上げの消費抑制効果は言われているほどでは無い

*2「現実最終消費」からみる消費浮揚への課題』を参照した。なお、参照先の図表は名目値で作成されているようだ。

*3関連記事:「若者の海外旅行離れ」を検証してみた

*4そもそも個人ではなく全体の可処分所得が減っている状況でもない。(社会保険料の雇用主負担分を含むものだが)雇用者報酬を見ると消費増税による物価上昇で瞬間的に落ち込むものの、その後の就業者数増加などを受けてか増税前より増加している。

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