2017年1月19日木曜日

南京“大虐殺”に関してアパホテルに反論しない左派

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2017年1月15日に中国人と米国人の宿泊客に、代表が著した南京大虐殺を否定した書籍を置いていたことが紹介され、ちょっとした騒ぎになっているアパ・ホテルであるが、言論の自由を理由に書籍の撤去に応じない姿勢を見せた上で、その書籍の該当箇所をウェブで公開して反論を求めるという行為に至った。はてなブックマークに棲息するネット界隈の左派勢力・はてサの皆様が、これに反論してくるかなと思ったのだが、今のところは非難するだけか、言及している人も核心部分はスルー*1するにとどまっている。

掲載された箇所は、南京大虐殺を否定する第一段落と、日本軍の南京進行を正当化する第二段落以降に分けられる。正当な進軍であっても虐殺が生じないとは言えないから、南京大虐殺の否定論としては以下の第一段落が重要である。

中国は日本軍が南京で三十万人を虐殺したと主張しているが、そもそも当時の南京市の人口は二十万人であり、三十万人を虐殺し、その一ヶ月後には人口が二十五万人に増えていたなどあり得ないことだ。しかも国民党中央宣伝部に雇われていた二人を除いて、欧米人など第三国の人が虐殺を目撃した日記も手紙も写真も、記録したものが一つもないことなど、更には、上海大学の朱学勤教授が「いわゆる南京大虐殺の被害者名簿というものは、ただの一人分も存在していない」と論文で発表したにもかかわらず、辞職もさせられていないことなどから、いわゆる南京虐殺事件が中国側のでっちあげであり、存在しなかったことは明らかである。

意外に左派には反論が難しい文章なのかも知れない。南京事件があったことを否定しきれてはいないのだが、中国政府が主張するような南京大虐殺があったと証明できていないと言う主張と取れば一理はある。

大虐殺の定義が問題になりそうだが、被害者が数十人でもそれに分類する事は可能であろうし、少なくとも相当数の捕虜の殺害があった蓋然性は高い*2。この意味で、南京事件は否定できない。しかし、民間人の被害者に関しては伝聞しか残されておらず、これといった調査が無い。中国共産党が主張しているような南京大虐殺*3があったかは著しく物証に欠くし、特に人数に関しては南京事件前後の人口推計との整合性が無い。

中国共産党も自身の主張に物証を欠くことは認めている。中国共産党の機関紙人民日報の電子版に掲載された記事に、以下のような一節がある。

ユダヤ人の受難の歴史について例をあげると、彼らは第二次世界大戦中にナチスドイツに殺害された仲間の個人情報、行方、死亡した場所などに関する完璧な統計データを持っている。このような正確で信頼に足る証拠を突きつけられると、ドイツ人は一切反論などできない。ところが、我々中国人は、「大体30万人」という言い方しかできず、一体どこの誰が犠牲になったのかを知るための正確な統計資料は存在しない

中国共産党が自説の根拠としている紅卍字会と祟善堂の埋葬記録を元に遺体の発掘調査を行なえば明らかになる事もあると思うのだが、そう言う薮蛇になりうることはしないのが、自覚ある為政者であることを示している。アパホテルに非難声明を出してはいるが*4

南京事件について捕虜が非人道的に取り扱われた蓋然性は高いし、民間人に犯罪行為を働いた将兵がいなかったとするのは無理がある。しかし、組織的かつ大量に民間人が不法殺害されたのかは、東京裁判の判決を含めて著しく論拠を欠く話になってしまっている。議論に決着をつけるためには、物証が必要だ*5。紅卍字会と祟善堂の埋葬記録を元に本当に相当数の遺体が出て来て、その遺体の時代・性別・年齢・死因などから南京事件の被害者像が浮かび上がれば、南京大虐殺否定派を黙らせる事が可能かも知れない*6。逆に、南京“大虐殺”が否定されてしまう可能性もあるわけだが。

追記(2017/01/20 23:09):コメントでid:hate_flag氏が『「20万都市で30万虐殺は不可能」論は欺瞞』を挙げているのだが、そこでまず挙げられている「問題1:中国説以外を無視」はアパホテルのは「中国は…」とあるので意味がなく、「問題2:人口と地理的範囲のごまかし」は、安全区に犠牲者はほとんどおらず、むしろ周辺に犠牲者が集中した場合でないと、安全区の人口が保存されないので「南京占領後の安全区に20万人以上いた」ことは何ら説明しないし、「問題3:中国軍の存在を無視」は懐疑説は南京人口20万+国民党軍10万人=30万人で計算されているので無視はしていないし、「問題4:あやふやな数字の悪用」は、アパホテルが特定の犠牲者数を主張しているのではなく、中国政府の言う犠牲者数を批判していることを考えると、アパホテルのサポートにしかなっていない。

追記(2017/01/21 08:39):日中歴史共同研究」をよく知られた論拠として挙げている人が多数いるが、むしろアパホテルのような懐疑論者をある意味正当化していることに注意すべきであろう。P.271を見てみよう。

日本軍による虐殺行為の犠牲者数は、極東国際軍事裁判における判決では20万人以上(松井司令官に対する判決文では10万人以上)、1947年の南京戦犯裁判軍事法廷では30万人以上とされ、中国の見解は後者の判決に依拠している。一方、日本側の研究では20万人を上限として、4万人、2万人など様々な推計がなされている。このように犠牲者数に諸説がある背景には、「虐殺」(不法殺害)の定義、対象とする地域・期間、埋葬記録、人口統計など資料に対する検証の相違が存在している。

捕虜を含めて30万人から2万人と言う推計があることもさながら、資料に対する検証が十分に行なわれていないとしている。何はともあれ埋葬記録の妥当性が発掘によって裏付けられれば、議論はある程度は収束していくであろう。

*1アパホテルによる歴史認識を謝罪しない文がちょっとすごい」を参照。

*2日本側の史料・証言などで立証できる1000人以上の規模の集団殺害から推定すると、殺害された捕虜もしくは便衣兵の数は二万人近くになる(Ⅱ 原剛氏特別講義(11月17日) レジュメ いわゆる「南京事件」)。

*3だんだん主張する被害者数が増えて来たと言われる。なお、増えているのはガセだと言う話はよくされるのだが、1938年2月の国際連盟理事会で中国代表の顧維鈞は2万人と主張していたのが、1947年の南京戦犯裁判軍事法廷で30万人以上となっている。そして、30万人説を主張するために祟善堂の埋葬記録をでっち上げたと言う陰謀が疑われている。

*4【歴史戦】アパホテルを中国外務省が批判 客室の書籍「南京大虐殺」を否定 - 産経ニュース

*5ナチス・ドイツのホロコーストであれば、大量の目撃証言や政府書類や写真どころか強制収容所が残っており、さらに亡命ユダヤ人などの親類や知人が行方不明になる事例があるなど論拠に事欠かない。

*6もちろん南京事件で日本軍によるものだと断定できるとは限らないが、強力な傍証にはなるはずだ。

1 コメント:

Yuu Arimura さんのコメント...

「南京事件 小さな資料集」
http://www.geocities.jp/yu77799/
反論として、このサイトを提示している人は若干見かけましたが、何しろ上記サイトにもあるとおり、とうの昔に論破されたことしかアパホテルのサイトには書かれていないので皆まともに相手する気にならない、というところでしょうか。
しかし、おっしゃるとおり、それでは「言い返せない=アパホテルの主張が正しい」と見做されかねないので、やはり「何度目だ」と思いつつも、辛抱強く反論していくしかないように思います。

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