2016年11月18日金曜日

朴槿恵を弾劾する事はできるのか?

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韓国の朴槿恵大統領が崔順実氏に演説草稿を添削してもらっていた事が発覚し、朴氏の退陣要求デモが繰り広げられており、与野党国会議員から弾劾まで取り沙汰されているここ数日だが、安易に政治的な激動を予言しない方が良いように思える。朴氏の失脚は明らかではない。弾劾審判を行なう憲法裁判所は、李明博氏と朴氏が任命した与党に近い裁判官で占められている上に、任期の関係で実質僅か2名の反対者で棄却されるので、弾劾のハードルは相応に高い*1。しかも、現時点で伝えられている情報からは、全員賛成になりそうな大きな過失が無い。

韓国では国会議員の過半数で発議すれば、在籍議員の三分の二の賛成をもって大統領を弾劾審判にかける事ができる。弾劾審判は憲法裁判所が担い、6名の賛成で弾劾となる。2004年の盧武鉉大統領の場合は選挙法違反が認められた一方で、側近の不正などは関与した事実が認定されずに、弾劾は棄却された。選挙法違反は韓国では多数発生しており、大概は議員資格の喪失なども無い軽罪だが、それ相応の罪の確定が弾劾には要求されると見て良いであろう。なお憲法裁判所裁判官定員9名のうち2名が近く任期切れになるらしく、2名が欠員のままか朴氏が誰かを任命する事になるので、実質7名中2名が反対に回れば弾劾されない事になっている。

現時点で朴大統領はどのような罪を犯しているのであろうか。分かっているのは情報漏洩で、演説草稿、海外訪問日程、閣議資料、北朝鮮との秘密接触に触れた前政権からの引き継ぎ資料を崔順実氏に渡していた事が分かっている。しかし、少なくとも演説草稿、海外訪問日程、閣議資料は国民に公開するものだ。引き継ぎ資料が問題になるが、『「秘密接触を行った」と書かれていた程度』だそうだ。大統領記録物管理法違反は無理で、公務秘密漏えいの罪しか問えないと報道されている。そして、漏洩先は公人では無いにしろ、別に外国諜報員と言うわけでもない。漏洩先の崔氏がインサイダー取引を行なっていたなども無いようだ。

崔順実氏の財団設立に関与した事は取り沙汰されているが、財団への出資要請だけでは違法には問えない。収賄罪で立件するためには、収賄の事実と同時に賄賂の見返りを約束していなければいけない。自身がトップでもない公益財団への出資が収賄と見なせるのかが良く分からず、今のところは見返りで何かしたような外形的事実も無いようだ。公費を使わず企業に出資要請しただけでは、権力乱用とも言えないであろう。日本ではリクルート事件で未公開株を譲渡されており利益を得ていた竹下登、中曽根康弘、宮澤喜一、森喜朗などの早々たる面々は、収賄罪では立件されていない。ただし、政治的に大きなダメージを負った政治家もいる他、政治改革が促され、公職選挙法が改正される事などになった。

韓国政治の専門家の『04年の盧武鉉大統領(当時)の先例と同じように、政治的に敏感な憲法裁判所は民意に従うだろう』 (だから、これだけデモで退陣要求されている朴氏は失脚するであろう)と言う予想もあるのだが、これで国民情緒法が優先されるのであれば、民主化から長らく日が経っているのに韓国の政治システムが全く成熟していない事になってしまう。憲法裁判所も戦略的に振舞うので、世論も反映するのは万国共通と言う話もあるが、世論の言いなりなるのは違うと思われる。日本が絡むとどんな判決でも出しそうな雰囲気はあるのだが*2。それでは韓国世論が納得しないと思うかも知れないが、(他に出て来る可能性もあるが)公務秘密漏えいの罪にしか問えないと確定したときに、今の盛り上がりが維持できるかは、まだ分からない。

*1박근혜 대통령 탄핵 성공 가능성은 매우 낮다. 청와대도 알고 있는 게 분명하다.」を参照。Google翻訳素晴らしい。

*2憲法裁判所と大法院(最高裁判所)は違う・・・かも知れない(関連記事:韓国司法の背景と論理を整理しても)。

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