2016年10月14日金曜日

日銀の政策転換でリフレ派が敗北したと言われる理由

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リフレ派の大半は不満のようだが、リフレーション政策が機能しない事は、日銀審議委員の間でコンセンサスを得つつある。インフレ目標値の達成を目指してきた日銀が、目標未達にも関わらず、9月20日の日銀金融政策決定会合で、さらなる量的拡大を諦めた事はその現れであろう。これに関してリフレ派から量的緩和だけがリフレーション政策ではないと言う主張もあるのだが、その主張には無理があるので指摘したい。リフレ派の学者もネット界隈の支持者も、ひたすら量的緩和を主張してきていた。

1. 日銀に入ったリフレ派は主張を変えた

金融政策に関与できるようになったリフレ派の学者は、その主張を既に変えている。産経新聞がリフレ派とされる原田泰審議委員の持論の変節を説明*1しているが、日銀が国債などを買い入れる量的緩和でインフレ期待やインフレ率をコントロールしようとすると一般に理解されるリフレーション政策は、少なくとも3年と言う期間では機能しなかった。以前はデフレの主因は金融政策だと主張していた岩田日銀副総も、今では当時の主張*2を維持していない。少なくとも「総括的検証」に反対したような報道はされていない*3。ネット界隈でも、リフレ派の多くが物価見通しの下落を批判し*4、マイナス金利の深堀などではなく、量的緩和の拡大を求めている。実際のところリフレーション政策が意味するのは量的緩和でしかない。

2. リフレの定義を広げると何でもありになる

リフレーションと言う言葉の考案者のフィッシャーまで遡ると、景気対策として物価を上げる施策であれば何でもリフレーションだった*5のだが、この定義を採用するとヘリコプター・マネーのような財政政策*6はもちろん、主流派マクロ経済理論でもゼロ金利を維持して財政政策を拡大し続ければいつかはインフレーションが生じる事になっているので、リフレーション政策の特徴が何もなくなってしまう。さらに、インフレ目標政策も、期待インフレ率を引き上げる効果を狙っているものだから、インフレ目標政策の支持者も全てリフレ派に分類される事になるであろう。しかし、リフレ派がデフレ派と罵る主流派経済学者の少なくない人々が、インフレ目標政策を支持している。リフレ派が敗北していないとすると、リフレ派とはどういう主張をしている集団を指す単語なのか、分からなくなってしまうわけだ。

*1量重視の「リフレ派」日銀・原田泰審議委員が敗北宣言? 「総合的判断」で金利重視に賛成 (1/2ページ)』を参照。なお、原田日銀委員は2015年11月11日の時点で、「日銀に来る前は予想物価が現実の物価に働きかける経路が大きいと思っていたが、実際の物価を見ると予想物価は足元の物価上昇率に影響を受けている」と認めていた。

*2岩田日銀副総裁講演資料『「量的・質的金融緩和」のトランスミッション・メカニズム』を見ると、インフレ目標政策の導入とマネタリーベースの増加(=量的緩和)が、予想インフレ率の上昇から物価上昇をもたらすと書かれている。

*3議事要旨の公表は11月7日になるので、現時点では参照できない。

*4今までの量的緩和の規模を考えると、物価見通しの下落がネット界隈のリフレ派の考え方を更新しないのが興味深い。

*5Irving Fisher "On Money Banking and National Debt Redemption" のP.139のあたりの議論を参照されたい。

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