2016年9月27日火曜日

ネットで心が折れないための10の作文技法

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ある社会学を学んだ女性エッセイストが、ネットで集中的に非難を浴びて、つまり、炎上して心が折れて自殺したくなったと言っていた。ネットの住民を批判したげではあったが、控えめにいっても彼女の文章は隙だらけで、それが理由で炎上を招いていたように思う。作文にある隙をなくせば、炎上を防止し、心が折れないようにする事は可能であろう。彼女のようなメンヘラ状態にならないために、最低限、努力した方が良いと思う点をまとめてみた。

1. 褒める事をよしとし、貶す事を避ける

殺人のような反社会的な行為でもない限り、自分の好きなモノを褒め称える事で炎上するケースは少ない。ほとんどの炎上案件は、何かを貶す事、何かを悪者にすることで生じる。祝福が作法であり、呪いは禁忌である。何かを褒めるために、それの比較対象を貶す人もいるが、こういう場合も炎上するから注意しよう。多数が叩いている犯罪者のような存在でも、叩き方を間違えると炎上するので、炎上を避けるためには叩くのはよすべきだ。水に落ちた犬を棒で叩いてはいけない。他者を批判する場合は、注意深く行なべきである。

2. 慇懃を心がけ、罵倒は避ける

年配者に多い気がするが、バカだのアホだの死ねだの言い出す人がいるが、無礼な態度は炎上リスクを増加させる。主張の説得力も増さない。罵詈雑言は不必要なので、避けるべき。社会学者がレイシストやレイピストのような単語を振り回しているが、あれも真似すべきではないであろう。政治家や芸能人が対象であっても、誹謗中傷は見ている人の心象を悪くする。

勢い良く誰かの行為を悪く言ってみたら、実は正当な振る舞いであることもある。川で溺れる子供を飛び込んで救助しない大人を見かけたら、不道徳だと批判したくなるかも知れない。しかし、実際にその大人を悪く言ったら、巻き込まれて自分も溺れることを避けるために、溺れる人は直接助けてはいけない事を示唆されるであろうし、口が悪すぎれば炎上する事になる。

3. 自尊心は尊重されないと心する

対面でのコミュニケーションでは、相手の自尊心を傷つけないような物言いを心がけてもらえる事が多いが、インターネットの向こう側の人々はそういう気遣いはしてくれない。作文に瑕疵があったと感じたら、容赦なく悪く言ってくる事は心しよう。火の粉がかかったときに間違いを訂正しないでおくと、下手をすると全焼するまで鎮火しない。また、炎上と言っても自分とは関係の無い人とのやり取りなわけで、大多数の人は「ごめんなさい」と言っている人に文句を言い続ける気力はなく、訂正謝罪による早期撤退は有効だが、自尊心が強い人には堪えるようだ。自尊心が強い人が、下手な弁解をして火に油を注ぐケースは良くみる。プライドが高い人は、最初から手堅い文章を書くしかない。

4. 感情的になったら文章を書かない

対面でのコミュニケーションでは、相手が怒ったり悲しんでいたりすれば物言いを変える事が多いと思うが、インターネットの向こう側の人々はそういう気遣いはしてくれない。激情に駆られて書く文章も、冷静沈着に書いたものとして読まれてしまう。感情的になったら文章は書かないようにしよう。感情的になったら散歩でもして時間を置くのも一つの手だ。もっとも、ネットの向こう側の人にそこまでして伝えるべきことも本当は無い。

5. 何事も一手間をかけて確認する

少なからず炎上案件の渦中にいる人々は、検索してソースをつけたり、教科書を見直して丸写しすれば間違うはずが無いことを、しょっちゅう間違えている。説明が出来ない専門用語や四字熟語は、辞書や教科書などで定義を確認してから使おう。事象に言及するときは、「~だ」と書くのではなく、「…によると~だ」と書くように努力しよう。

字数制限などで最終的に「…によると」を省略する結果になっても、文献を確認する事で勘違いや思い違いに気づく事は色々あるので、文章の品質を大きく引き上げる事ができる。参照元の信頼性についてのチェックにもなる。文献のページ数や段落などもメモを取っておく方が望ましい。原理的に日ごろの学習量が多ければ、自然と炎上は防止される。

6. 表現は明確で簡素にする

比喩的な言い方、婉曲的な言い方は避ける。理由は二つある。一つは、読み手はそんなに親切ではないので、多かれ少なかれ誤解をしていく。誤解に基づいて、炎上することもある。本来ならば弁が立つ職業の弁護士が炎上するケースで、これを見たことがある人は多いかも知れない。もう一つは、自分が自分の主張を理解できていない時があって、それによって思わず炎上する場合がある。自分で言っていることを自分で理解することは、炎上防止にも有効だ。

7. 読み手に明確な用語を選択する

良く分かっているつもりでも実は曖昧さが残る単語は多いし、集団によっては独特の定義をしている単語は多い。例えば、奴隷と言われたら、昔のアメリカの黒人奴隷を想像する人は多いであろうが、古代の債務奴隷と同じ定義で使っている人もいる。情緒に訴えるためなのか、誤解されやすい言い回しを好む人々もいるが、誤解をもとに炎上しやすい。仙谷由人氏は国会で、暴力装置と言う単語を正しく使った結果、なぜか炎上した。理工系だと分からない単語で済むのだが、社会科学や人文科学の用語は炎上することがある。読み手は常に自分の詳しい分野の外の人だと心して、用語は定義を説明するように心がけよう。

8. 論じる対象はなるべく狭めておく

名詞が指し示す範囲が広いほど、反例が出て来やすくなるので避けるべきである。「欧米では~」と話をする人は多いが、「英米では~」の方が適切な事は少なくない。「米国では~」でもかなり危険で「メリーランド州では~」と言う場合すらある。個人的な体感を普遍化しようとする人は、このミスを犯すことが多いので、特に気をつけよう。山のように反例を投げつけられるタイプの炎上になる。

9. なるべく短い文章を書く

論理の一貫性を取るためには、長い文章は書かない方が良い。どうしても長くなる場合は、節を区切っていくなど工夫はしよう。論理的におかしいだけではそうは炎上しないのだが(たぶん指摘を全スルーしても無問題)、下手な反論をして火に油を注ぐケースはあるので、最初から正しいほうが炎上防止になる。また、長い文章だと全体を読まない人が過半数だと思った方が良い。

10. 直観で善悪の判断をしない

善悪の判断を直観に頼ることは避けた方が良い。公平性や一貫性で問題が出てくるので、炎上回避のためには善悪の判断も形式的に行なうべきである。他人を裁けるほど、あなたの心は偉くは無い。自分の規範が他の大多数の人の規範と異なっているために炎上するケースもあるので、裁判の判例を参照したり、倫理学の議論を借りてくる事などにより、自分の考え方が矢面に立つ事を避ける工夫をすべきである。

まとめ

これはエッセイスト向けなので、個人や組織の私的情報を扱う場合などでは別に注意が要るが、基本的にはこれぐらいを心がけて作文に励めば、ネットで心が折れることは無いと思う。個性のカケラも無くなりそうだが、殺伐としたインターネットなので仕方が無い。言いたいことではなく、言えることを言うようにしないと、何かの弾みで炎上してしまう。

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