2016年7月21日木曜日

左派が知っておくべきマネタリーベースとGDPデフレーターの関係

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先日、『「左派」に属する人が「お金をたくさん刷っても物価水準は上昇しなかったよね」のような発言をしていたが、せめてGDPデフレータ―の推移を見てからそういうことを言うべき』と言うようなツイートを見かけた。ここで「お金をたくさん刷っても」は量的緩和でマネタリーベースを増やしたことを意味する。さて早速、(左派では無いが)言われた通りにマネタリーベースとGDPデフレーターの関係を確認してみよう。

ざっと見ると、2013年第1四半期までは逆相関、2013年第2四半期からは順相関となっている。また、2006年にマネタリーベースを減らしたときはGDPデフレータ―は特に影響を受けていない。ここから言えることは、時系列データにありがちな見せかけの相関の可能性が高いと言う事だ。

仮にマネタリーベースを増やしてGDPデフレーターの上昇を促せるとしても、グラフから読み取れるその力は僅かだ。2016年第1四半期は、2005年と比較してマネタリーベースは3倍以上になっているのに、GDPデフレーターは95と下回っている。日銀が全ての国債を買いきっても、100には届きそうに無い。

GDPデフレータ―は、名目GDPを企業物価や消費者物価などで調整して作る実質GDPで割って作る指数で、非直観的な特性が色々とある。資源安などで輸出物価の価格が下がれば上昇する。最近は原油価格はもちろん、その他の資源価格も下降気味なので、その影響を受ける。また、これは直観的だが、輸出価格が上昇すれば上昇する。こういうわけで物価水準云々の議論のためには、国内需要デフレーターを見た方が良いであろう。消費増税の影響をどの程度に仮定すべきか確認できなかったのでグラフは作成は避けるが、2012年第3四半期まで下落し、その後は2014年第4四半期まで上昇していくのだが、その後は下落している。国内需要デフレーターはマネタリーベースの増加とともに上昇していない

そもそもマネタリーベースはベースと言うぐらいで、世の中に出回っているお金の量ではない。マネーストックを見る方が適切であろう。マネーストックが上昇せずに、物価が上昇していく事は考えづらい。マネタリーベースとマネーストックの関係を確認してみよう。面白いぐらい影響を受けていないことが分かる。

クルッグマンやウッドフォードなどの著名マクロ経済学者も、流動性の罠、つまりゼロ金利制約下での量的緩和の効果はほとんど認めていない。将来に渡ってマネタリーベースを増やし続ける事が約束できれば、つまり将来のインフレを許容することを約束できれば効果がありえるとは言っているのだが、現在のマネタリーベースの量自体は、その約束を保証しないからだ。

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