2016年4月2日土曜日

家計最終消費支出と消費水準指数の乖離について

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消費税率引き上げで自殺者が増える*1、税収が減る*2と予言を外して来た某ブログが、「増税派黒田総裁にみていただきたい一枚の図」と言うエントリーを上げてきた。消費増税を繰り返すたびに、消費水準指数のトレンドが下方に屈曲してきたと主張している。単にバブル以降、消費増税前の駆け込み需要を除けば一本調子に下降してきた気がしなくも無いが、ブログ主がこの統計の癖などを考慮していない所を指摘しておこう。後述する理由で、この指標は盲信してはいけない。

消費水準指数は、家計消費の面から世帯の生活水準をより的確に把握することを目的として、消費支出から世帯規模(人員)、1か月の日数及び物価水準の変動の影響を取り除いて計算したものであり、平成20年1月からは人口の高齢化の影響も調整するように工夫するようになった(家計調査の結果を見る際のポイント No.7)。問題のエントリーは、恐らく見栄えの悪い旧指数を恣意的に使っていて、新指数を無視している気がするが、この新指数もちょっと解釈に困るものとなっている。家計最終消費支出と並べてみると分かる。

GDP統計の家計最終消費支出は増えている。1994年から2015年までは人口は最大で2.25%しか変わっていないので、家計最終消費支出を人口で割った数字で見ても、増加傾向は変わらない。しかし、消費水準指数は低下している。一人あたりの消費が増えているのに、世帯規模を調整した家計消費は減っている事になっている。二つの指標の傾向が合致しない。

名目値で家計最終消費支出を見ると大雑把に横ばいで、消費税収も税率が5%の間は大雑把に横ばいになっている事から、家計最終消費支出の数字は信用しても良いであろう。消費水準指数の方が、何かおかしい事になっている。世帯人数が2人と4人の家計で消費が2倍と言う風に単純には計算していないであろうから、核家族化の影響を上手くコントロールできていないのでは無いかと思う*3

何はともあれ、消費水準指数を取り上げる前には、家計最終消費支出との齟齬を説明する必要がある。過去の予言の外し方からして政治的に偏りすぎて冷静さを逸しているブログ主に、細かい説明が出来るとも思えないが。

追記(2016/04/05 06:00):ブログ主が反論エントリーを書いてきたのだが、変に熱くなり過ぎているようだ。このエントリーのどこを見ても増税の是非など書いていないのだが、「だから消費税を上げても無問題である」と主張していると誤解している。他にも気になる所があったので、追記で言及しておきたい。

各個人の立場からみれば、使っている耐久消費財の数が増えているわけではなく、その意味で家計の人数増減を調整し、マクロの家計最終消費支出ではわかりにくい実質的生活水準を消費水準指数としてみえやすくしている

そうとは限らない。例えば実家にいるより一人暮らしの方が快適と思っている人から見ると、生活の改善になる。

そこで、前回の消費水準指数とともに、家計最終消費支出(名目値)を使って、消費税増税の影響を再検討してみました。

何やら家計最終消費支出の伸び率を見ているのだが、意味の無い分析になっている。このブログ主は擬似相関と言う言葉すら知らないかも知れない。時系列データ分析の本は色々と出ているので、一度はしっかり勉強して欲しい。

経済が成熟してくると経済成長率(∝消費の増加率)は低下してくる一方、日本は段々と消費税率を引き上げてきたので、因果があろうが無かろうが相関関係は出る。また、あらゆる増税による可処分所得の減少は、政府支出を拡大する一方で、家計の消費支出を抑制するであろう。円安による輸入物価の上昇だって抑制になる。他にも生産年齢人口の減少の影響もあったであろう。だから、論証になっていない。

増税前の駆け込み需要とその反動ぐらい短期間で変化が見える明確な傾向であれば、他の要因を凌駕していると言えなくも無いが、長期でこれぐらいの変化だともっとしっかりした分析手法が必要だ。

*1関連記事:消費税率を引き上げても、自殺率は上がらなかった

*2関連記事:消費税率を引き上げても、税収は減らなかった

*3大家族から分裂した核家族は、大家族のときよりも一人あたりの消費が大きい一方で、それまでも核家族だった人々よりも消費が少なかったりすると、一人あたりの消費が改善する一方で、消費水準指数が悪化するのかも知れない。しかし、この場合も、消費水準指数の悪化を問題にする必要は無いであろう。

追記(2016/06/17 19:16):例を挙げてみよう。以下の表のように基準年から比較年に変化したとする。基準年と比較年の人数は60で同じだが、世帯構成と平均支出が変化しており、総支出は1500から1550に増加している。しかし消費水準指数を見ると、基準年が75で、比較年は(10*90 + 10*55)/20=72.5となり、低下することになる。

人数 世帯数 平均支出 合計支出
基準年
4 10 100 1000
2 10 50 500
比較年
4 5 90 450
2 20 55 1100

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