2016年2月6日土曜日

想定通り右往左往するインドネシアの高速鉄道計画

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中国案に決まったと思われていたインドネシアの高速鉄道計画(東洋経済)が、暗礁に乗り上げているようだ。最終的に二大主要都市であるジャカルタ-スラバヤ間を結ぶ計画で、まずはジャカルタ-バンドン間の路線を造るものだが、もともとは日本が関わってきた*1のを、入札が停止された後に相対契約と言う不自然な形で中国国営企業が契約に漕ぎ着けた。こういう経緯からネット界隈では中国が悪いように言う人が多いようだが、インドネシア側にかなりの不備があるように思える。むしろ、インドネシア側の想定通りに右往左往しているのでは無いであろうか。

中国はインドネシア政府の財政負担が無いBTO方式を提案したと言われていたが、最近の報道では実質的な政府保証を求めてきているようだ(読売新聞)。中国側が嘘をついていたように思う人が多いようだが、決定段階でしっかり詰めていなかった事が分かる。認可の申請書の一部が中国語のままと言うのも、その証左である。入札書を作成しておけば、ここまでの食い違いは起きない。インドネシア運輸省は、耐震強化要求や耐用年数の延長を求めている事も報道されているが、技術提案書を吟味した上で決定されていたら、このような事は起きなかったであろう。これほどの大プロジェクトで手続きを吹っ飛ばして決定したら、このような事は起きる。

何が起きているのであろうか。ジョコ政権は高速鉄道計画に予算を割く気が無く、計画を諦めたものの、国内インフラの拡充に取り組んでいる姿勢を示す必要があって、中国が示した廉価なプランに乗り気を示したのであろう。本気で乗り気になったのかは怪しい。日本が提示する費用だけが問題であれば、入札を停止して、中国と相対契約を行う必要は無かったはずだ。中国側の入札準備が間に合わなかった可能性もあるが、単純に入札時期を延期をすれば良かった。さらにジョコ大統領は、中国企業がフィリピンで受注したものの建設が中断したノースレール計画を認識している事を日本側に伝えたとされる*2。先例を認識した上で曖昧な合意で前進させていると言うことは、実現に大きな期待を寄せているわけでは無いと言うことだ。

インドネシアは交通インフラの整備は優先順位の高い課題とされる一方で、2012年から経常収支がGDP比で2%以上の赤字になってしまい、高速鉄道計画を立案した頃とマクロ経済バランスが異なっている。軍や与党の強いバックアップが無いとされるジョコ大統領の政治基盤も、強いものではない。色々な人が色々な計算と様々な駆け引きをしているところに、空気を読まずに中国企業が乗り込んでいったわけだ。インドネシア側の政策調整が済んでいないわけで、かなり運が良く無いと、また失敗を犯すことになる。フィリピンに続く二度目なので同情する事は無いが、インドネシアが中国に痛い目にあわされていると言うより、インドネシアに中国が痛い目にあわされていると言うのが実態であろう。

受注競争に敗れて悔しいと思う人々も相当いるようだが、日本としては適切な対応が出来ているので、対岸の火事を眺めておけばよいと思う。損失を蒙る案件は取れないし、中国企業の利益が大きくなりそうになったらインドネシアが計画を仕切りなおすのは確実なので、逸失利益も生じない。

*12008年には円借款案件形成等調査が行われ、「インドネシア・ジャワ島高速鉄道建設事業調査」が作成されている。

*2【インドネシア高速鉄道】敗因は中国のなりふり構わぬ札束外交 資金繰りも工法もリスクだらけ…「まるでシャブ漬けだ」との声も(3/3ページ) - 産経ニュース

*3政権内部ではスマルノ国営企業相が計画をリードしているようだが、消極的なジョナン運輸大臣の確執が報道されている(ニュースフィア)。

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