2015年9月9日水曜日

新型軽減税率もしくは消費税還付制度の問題

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各方面から軽減税率が反対される中、財務省が“新たな方式の軽減税率”を提案し(NHK)、自民党の税制調査会も承認したようだ(NHK)。早くも公明党が実は軽減税率ではないと気づいたようだが(読売新聞)、特定品目、つまり外食サービスを含む食料品を対象にした消費税還付制度になっている。払った消費税のうち2%分を一人年額4000円を上限に還付されるそうだ。ある点を除けばそう悪い案ではない。ある点が致命傷な気がするが。

世間では無視されるであろう、新方式の良い点を説明しておこう。軽減税率には色々と問題があるのだが*1、その中で、政府内で検討されているような対象品目では、多かれ少なかれ価格に歪みを与えて同じ税収なのに低い生活満足度をもたらすと言うのが、ラムゼイの最適課税論による教科書的な議論だ*2。スポーツ・ジムで運動した方が健康になれる人が、相対的に価格が安くなった菓子を食べ過ぎてしまう状況を想像して良いと思う。この消費税還付制度、上限が低いので消費者から見た価格(=価格-還付)に歪みを与えない利点がある。

人間、何だかんだと最低でも年間20万円ぐらいは食費に使っている。自炊をしても一食数百円はかかるものだ。自家作物の消費が多い農家などが例外になるかもだが、ほとんどの国民は還付上限に達する。食料品の限界的な購入、つまり贅沢や節約の意思決定において、還付金が影響する事は無い。上限が年額40万円ならば、話は変わってくるのだが。

実質的にほぼ全員が等しく給付金を貰うことになるので、ネット界隈で待望論があるベーシックインカムと同等の分配機能を持つ事になる。もし導入されれば、世界の税政史に残るイノベーションとなるであろう。しかし、ほぼ全員が等しく給付金を貰うのに、それが消費税還付金と言う名目になっているので煩雑な事務手続きが必要な上に、何やらマイナンバーカードなるものを使わせようとしている。

食品に幾ら使ったかを把握し、さらに不正記録を排除したいのであろう。レシートのような簡便なモノだと役所が集計してチェックするのも難しいし、偽造レシートが出てくる可能性もある。だから偽造困難な電子決算の仕組みを導入しようと言うのだと思う。しかし、個人の購入品目を記録・集積するシステムを構築し、それを災害時なども含めて常時運用するのには費用がかかる。また、小売店は追加投資が求められる事になる。

価格の歪みにおいて改善が見られるのだが、実際の運用が高コストで現実味を感じない。単純に給付付税額控除を出せば良いのでは無いであろうか。現行案では実利よりも儀式を優先することになる。

*1高級食材があるので逆進性の緩和機能が低いことを含めて、良いことはほとんど無いと思われている(関連記事:消費税の軽減税率に反対すべき5つの理由

*2厳密には消費税の所得効果を相殺するように軽減税率を設定できれば、一律な消費税率より歪みが解消できる。奢侈品やレジャーなど需要の所得弾力性が高いモノは税率を低くする方が望ましい。

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