2015年7月8日水曜日

物理学にそんなに興味が無い人向けの素粒子の本

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難しい科学と言えば物理だ。高校物理の範囲を超える世界になってくると、カケラも内容を知らない人は多いと思う。その中でも素粒子物理学と言うと、お金のかかる巨大な装置で何かしているぐらいの印象しかない人が多いと思う。ノーベル賞があるため、定期的に話題になるわけだが、いつも人間ドラマにされて研究内容にしっかり触れられることは少ない。しかし、こういう現状に嫌気がさしていて、ちょっとは詳しく知りたいと思った人に、おあつらえむきの本はある。「強い力と弱い力」だ。

本書は素粒子物理学の発展と現状を、強い力、弱い力の説明から、対称性の自発的破れ、ヒッグス粒子の話につなげていく意欲作になっている。小噺も豊富な研究史なのだが、現在の標準模型が説明できるところ、説明できていないところの紹介まで到達しており、実は一般向けのサーベイにもなっており、素粒子物理学の現状が何となく分かる。物理学者のタイプ(P.200)や、研究のタイプの分類(P.267)などにも触れられており、著者と言うか理論物理学者の研究観なども垣間見れる。高校生や大学生が一般教養で読むと良い感じになっていると思う。

それなりの数の聞きなれない専門単語が出てくるわけだが、場など基本的な用語から説明してくれている。一読して覚えきれる量でも無い気がするが、なるべく正確に小気味良く概説が書かれているのは有り難い。なお物理学の科学読本としては、珍しく世間の誤解を批判している。副題に「ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く」とあるのだが、本当は「世間にかけられたヒッグス粒子に関する誤解を解く」といった感じであろうか。

終章の研究資金くれくれ感に敬服するし、何かが分かった気になれる読後感が良い本だ。よくよく考えると細部は分からないことだらけで、例えば加速器が加速する陽子はどこから取り出すのか考え出すと、検索すると水素イオンだとすぐ分かるのに夜も寝られないのだが、見通しが良いと言うことなのであろう。ところで全く関係ないのだが、「シドニアの騎士」の重力子放射線射出装置が超絶に威力の無い兵器な気がしてきてショックを受けている。

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