2015年4月20日月曜日

数学では何を学ぶべきか

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題名からすると数学の実用方法が書いてありそうな『数学をいかに使うか』は、数学徒における「使う」の意味について考えさせられる本だった。数学では何を学ぶべきか、何を教えるべきかが書いてある。「使えない数学は教えなくてもよく、学ばなくてもよい」そうだ。偉い先生が書いた本らしく、歯切れが良い。著者の志村五郎氏は、著名な数学者である。

内容は、線形代数からメタプレクティック群まで大学で習う数学の概観が説明されている。物数系でもないと知らない事が多くトピックが広いように思うかも知れないが、上手くそれぞれの関連が説明されるので繋がりが良く分かる*1。証明や(模範解答なし)問題はあるので予習や復習にもなる。外積代数で迷子になった人は、第4章まで読むと考えがすっきりするかも知れない。しかし、決して学習教材ではなく、著者流の学習ガイド、もしくは数学教育に関する随筆である。

「使う」の意味なのだが、数学として発展的に使うと言う意味のようだ。最初の線形代数の使い方の章が、ランクと行列式に関する話で終わって面食らった。それはさておき、著者は数学に厳密さを与えたり、歴史的な価値を持つ「立派な定理」であっても、発展が無ければ限られた時間で教えなくても良いと主張する。

例えば、Riemmanの積分定理は読めば分かるので教室で証明する必要はなく、代わりに微分形式や外微分などの実際的な使い方を教えるべきと書いてある(p.79)。ガロア理論も発展がないので代わりに表現論を教えろ(p.135)、角の三等分問題はコンパスと言うのが不自然だから代わりに四元数環を教えろとある(p.138)。逆に、使えるものは何でも使った方がよい(p.138)と、無闇に学習範囲を狭めることは否定する。例えば、ルベーグ積分はしっかり教えるべきとある(p.113)。厳密さは落としても良いようだ。また、教科書にあまりかかれていないが使える定理が紹介される。著者は旧態依然とした数学教育に不満があるようだ。

各所にお勧め*2と非推奨の教科書の話があり、定理などの命名の話(p.49)など数学史の話も多い。非推奨を本に書けるのは偉い先生だからこそ。クリフォード代数とスピン群では、他の教科書を「私にはどの本も気に入らない・・・そこで私の著書二冊をあげた」(p.75)とある。全体として著者はすごく気軽な気持ちで本書を書いたのであろう。すごく気軽な気持ちで読める読者は、かなり勉強している人に限られる気がするが。学部生は一度読んでから一年後に読み返すと、学力の向上が分かると思う。

ところで本書の対象読者に、理工系や経済系の学生や中高の数学教員が挙げられているが、モジュラー函数や保型形式やメタプレクティック群が必要な人が、どれぐらい存在するかは定かでない(´・ω・`)

*1楕円函数とフーリエ変換の関係が、モジュラー型式~保型形式~メタプレクティック群の流れでつながる話も面白い。

*2最近の日本語文献は良く知らないと言う理由で、英語の文献が多い。

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