2015年2月25日水曜日

残業代ゼロ法案に関する八代-ささき-渡辺論争の本当の争点

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国際基督教大学の八代尚宏教授のホワイトカラーエグゼンプション法案の説明について、労働問題を手がける弁護士の佐々木亮氏*1と渡辺輝人氏*2が強く批判している。しかし、見解の相違がどこから来ているのか良く分かっていないようだ。細部も色々あるようだが、雇用主に従業員の労働時間を減らすインセンティブが無くていいのかが一番大きな違いになっている。そしてそれが必要か否かは、誰が労働時間を決めるのかにかかっている。

1. 誰が労働時間を決めるのか?

弁護士の二人は、雇用主(や作業監督者)が業務量を決定し、従業員がそれに従っていると思っている。ライン労働者や店舗販売員が典型例となる。しかし八代氏は、従業員が労働時間を決定し、雇用主がそれを黙認すると思っている。外回りの多い営業職などが該当するであろう。“本当のホワイトカラー”も、八代想定になる。この想定を受け入れると、佐々木氏・渡辺氏の批判は的外れになる。聞いていないよ!と言う感じだと思うが。

2. 従業員が決めるのであれば、新制度は短時間有利

佐々木氏は「今回の新しい制度は、短時間で効率的に働く労働者に有利な仕組みではありません」と批判しているが、これは経済学者から見て近視眼的になる。賃金の原資たる生産物は、(能力一定として)労働量で決定される。現行法では、賃金の配分は労働時間で決定されるから、同じ労働量でも長時間労働者は、短時間労働者よりも賃金が高くなる。同じ職場に長短いれば、短時間労働者が稼いだ分も、長時間労働者の賃金になってしまう。改革案では、労働時間は関係なくなるから、賃金は同じになる。長時間、職場にいたくない所まで加味すれば、短時間労働者の方が有利であろう。

3. 雇用主が決めないのであれば、残業代ゼロは無問題

念のために言及しておくが、残業代ゼロだからいっぱい働いてもらおうと雇用主が思っても、八代想定であれば実質上の指揮命令能力がないので、働かせられない。また残業代の割増率を高くすると、雇用主が早く早く片付けて~と思っているのに、従業員がさらにダラダラと残業することになって逆効果になる。

4. 従業員が決めるのであれば、労働時間が短縮される

短時間労働が有利になれば、テキパキ仕事を片付けて労働時間を短縮しようと言うインセンティブが従業員に産まれる。(ちょっと論理の飛躍があるわけだが)労働時間の短縮は、過労死の可能性を抑制するであろう。だから「過労死防止法案」と言うのも、理屈がつく。みなし労働時間制の導入は、従業員のインセンティブを改善しても、総賃金の増加をもたらしうる。また、みなし労働時間を超えて働く従業員が出る可能性もある。

5. 本当に従業員が労働時間を決めるのか?

渡辺氏と佐々木氏が間違っていると言いたいわけではない。八代氏の想定を受け入れれば、八代氏の議論は破綻していないと言う指摘をしているに過ぎない。個人的には「政府が働きすぎを心配する必要は無い ─ そう、本当のホワイトカラーならね。」と思っているが。何はともあれ残業代は雇用主に従業員の労働時間を減らすインセンティブ。それが必要か否かは、誰が労働時間を決めるのかにかかっている。

A. 会社を辞める自由があったとしても

八代氏の説明に省略があるので、佐々木亮氏が「労働者には会社を辞める自由があることを知らないのだろうか?」と混乱しているので説明したい。八代氏は、転職市場の規模が大きいほど、より転職先が容易に見つかるようになり、「労働条件の悪い企業からの脱出」が容易になると考えているようだ。日本の転職市場は既にそこそこ大きい気もするし、流動化に備えると特定企業に特化した技能習得が出来なくなるから、逆に非効率なケースもあり得るのだが、これも八代氏の想定を受け入れれば問題は無い。

B. 失業率、失業率、失業率、弁護士も気にすべし

御題と直接の関係は無いのだが、現行制度に雇用主から見て問題があれば労働コストが高くなっていると言うことなので、失業率が高くなる。欧米と日本の完全失業率を比較すると、日本は依然として(OECDなど基準をあわせたものでも)低い水準になっているし、経済危機で瞬間的に跳ね上がっても迅速に低下していく傾向がある。15歳から64歳までの労働参加率も高いので、隠れ失業者が多いわけでもない。日本の雇用規制が厳しいと言う人々は多いわけだが、この数字は辻褄があっていない。討論会するのであれば、聞いてみてください。

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