2015年1月7日水曜日

内部留保を溜め込む企業はやはり守銭奴かも知れない

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麻生財務大臣が内部留保(利益剰余金)が増加している企業を守銭奴と表現したことに関して、反響が広がっている。しかし、現・預金比率は増えていない事から、内部留保が多いことを理由に投資や賃上げをしていない事にならないと批判しているのは勘違いのように感じる。負債は減っているから資金調達能力は増していて、投資や配当を行なう余力が増しているのは変わらないからだ。

1. 企業部門の貯蓄超過が続いている

企業部門の貯蓄超過が不況の原因のように言われることがある。資金調達を行い事業をする企業の資金需要が落ちているわけだから、経済成長のペースが緩くなっていることを示すのは間違いない。この原因が収益最大化の機会を見過ごしていると言う意味で投資不足か否かは議論が分かれる*1のだが、投資不足でないにしろ何故配当を増やさないのか疑問が残る。

2. 通説では再投資しないならば負債を増やし配当をする

急成長している企業では配当性向が極端に低い事があるが、これは成長性があるので再投資を繰り返しているためだ。ビジネスが確立した成熟企業は、事業が安定的になるので債務不履行による倒産確率が減少し負債を大きくできるようになる(Modigliani and Miller(1963))一方、豊富になったキャッシュ・フローを経営者が勝手に使い込まないように、配当性向が高まると理論的には考えられてきた(Jensen and Meckling(1976))。

3. なぜか負債の圧縮に励む日本企業

しかし、日本企業は投資もしないし配当もしないで負債を頑張って減らしている。この傾向は1998年からで、東証一部上場企業の純利益が過去最高をつけたリーマンショック前の好景気の時期も変わらない。何のために内部留保を蓄えているかが、一つの謎としてある。株主利益になるような理由で蓄えている可能性もあるが、経営者や従業員が保身のために会社存続の確率を最大化している可能性もあって、するとやはり守銭奴的な側面があることになる。

4. 麻生発言はそんなにおかしくない

賃金に関しては労働市場の需給で決定されるもので、株主利益の最大化を目指す経営者からすれば自発的に上げる理由は無いから、内部留保と関連付けるのはどうかと思うが*2、投資と配当を抑えて債務を削減し、内部留保を蓄えているのは確かだ。守銭奴と言う表現が適切かどうかは別として、企業部門の貯蓄超過を念頭に置いた発言だと考えると、麻生発言*3はそんなにおかしいものではない。

*1例えば日本経済の縮小を予測して投資を減らしているのであれば、結果であって原因と言える。

*2ただし、雇用者報酬の減少が企業部門の貯蓄超過の原因の一つとも言われる(日本経済研究センター)。

*3内部留保は「守銭奴」…麻生氏、賀詞交歓会で : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

2 コメント:

thinkingHoliday さんのコメント...

内部留保の増加を守銭奴であると批判したり、「内部留保を蓄えている」と表現するのは疑問ですね。

もっとも大きな疑問は、内部留保は株主の投資判断の結果に過ぎないのに、なぜ批判的に言及するのかという点です。

内部留保の本質は、純利益の再投資です。純利益の内、配当しなかった価額を利益剰余金等に振り替えたのが内部留保の実態ですが、これは資本の部(現純資産の部)を構成します。資本の部を構成するということは、内部留保は結局その企業への再投資ということを意味します。そして、配当金の価額を決定するのは株主総会なので、内部留保の額を決めたのも株主ということになります。

つまり、株主は純利益の内何割かを配当金として受け取り、残りをそのまま同一企業に再投資する(内部留保となる)のです。それは株主の投資判断に過ぎないのに、なぜ守銭奴であるとか、内部留保を「蓄えている」とか批判的に言及するのでしょうか。純利益をどのように処分するかは株主の自由でしょう。

記事の中で、投資もせずに負債の圧縮に励んでいると指摘していますが、それは資本の元手が純利益の再投資(内部留保)であるか、株券であるか、で何か違いが生じるのでしょうか。負債の圧縮は単に経営判断に過ぎず内部留保の増減とは無関係ではありませんか。

uncorrelated さんのコメント...

>> thinkingHoliday さん
> 内部留保は株主の投資判断の結果に過ぎない

会社側から提案したものを株主総会で承認しますが、現実には経営者の判断です。

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