2015年1月4日日曜日

ラムゼー・モデルで考えるアベノミクスの成長戦略

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アベノミクスの成長戦略の一つの柱は、実現までは難航しているようだが法人税減税(時事公論)だが、企業優遇のために思えるせいか、消費税率の引き上げを伴うせいか、左翼リフレ派の人々には人気が無いようだ。しかし、目的について理解もせずに、批判している人々は多いように思える。後述する理由で賛否は色々とあると思うが、主唱者の意図する理論的背景は知っておいた方が良いであろう。

左翼リフレ派が目の敵にする新古典派経済成長モデルと言うのがある。かなりのバリエーションがあって相反する結論が色々と出てくるのだが、その中でもっとも素朴な代表例としてラムゼー・モデルと言うのがある。代表的個人と言われる、未来を予測できる同質の家計が集まっている経済で、税制が消費や投資にどのような影響を与えるかを考えるのに使われる。失業や家族の不仲も考慮されず、かなり素朴な世界なのだが、仮定を明確に理屈を理論整然と考えるのには都合がいい。

このラムゼー・モデルで法人税減税と消費税増税を行なうと、どういう事が起きるかを見てみよう。税率と言うディープ・パラメーターが途中で変化することから解析的に分析するのは困難なので、それらしい生産関数や効用関数を置いて数値演算を行なってみた。税制変更による法人税減収と消費税増収が一致するようにしてある。なお、詳しい説明はマクロ経済学者の齊藤誠氏の講義資料を、詳しい計算方法は「講義ノート―動学マクロ経済学入門」の第2章を参照して欲しい。

Ctが消費、Ktが消費、tが期を表す。ラムゼー・モデルの世界では、投資をする以外に貯蓄手段はないので、完全予見であっても行動の柔軟性に制限がある。だから、20期あたりが税制改正前の定常状態、50期あたりが税制改正後の定常状態と見なしていい。消費は一時落ち込むが、投資が増えていって、最終的には消費も増えることがわかる。これは経済成長に他ならない。だから、アベノミクスの成長戦略の一つの柱は、単なる企業優遇政策ではない。

貧富の差など家計の異質性が大きいと結論が変わってくる可能性があるし、法人税が低いとストック・オプションでの給与支払いで所得税を節税しようとする動きも出てくる*1し、実証的に法人税と利子所得課税が貯蓄(=投資)を減少させる効果が限定的であると言う話もある*2。物事を考える上で理論モデルは大事なのだが、あくまで単純化した世界での話だから、全面的に信じる必要は無い。しかし、法人税減税が成長戦略になりうることは、知っておいた方が良いと思われる。

*1これは日本では当てはまらない。2005年1月25日の最高裁判決で、従業員に付与したストック・オプションは給与所得になる事が確定している。

*2関連記事:法人税と利子所得課税が不足している

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