2015年1月26日月曜日

アベノミクスで自殺が減ったと言う前に

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自殺者数が17年ぶりの低水準で、しかも経済問題が動機と思われる人が大幅に減少した(ZAKZAK)ことから、アベノミクスで自殺者が減少したと喜んでいるリフレ派の人々を見かけた*1のだが、記事には「5年連続の減少」とも書いてある事に注意が足りていなかったようだ。アベノミクス以前の民主党政権期から自殺率は低下していた。グラフを描いて、確認しておこう。

2009年からの自殺率低下を、雇用回復で説明するのも辞めた方が良いかも知れない。経済苦から自殺をする人はいるだろうし、不況のときはそういう人が出やすい。しかし、よく見ると小泉政権期の雇用回復にも、リーマンショックによる雇用悪化にも影響されていないからだ。自殺率と完全失業率の関係を見ると、相関はありそうだが、そう単純ではないことが分かる。

実は計量分析で景気と自殺率の関係を割り出すのは、かなり苦労する。そして推定される効果量も、意外と小さいものだったりする*2。「自殺のない社会へ」の第5章の推定量だと、失業率が1ポイントあがっても、10万人あたり0.2人ぐらいしか自殺は増えない。

減少傾向が続いているので、アベノミクス批判にはならない。しかし、アベノミクスで自殺率が減ったとは言い難いし、そもそも景気回復で自殺率が減ったかも実は怪しい。何はともあれアベノミクスで何かが変わったと言う前に、変化したものの長期的傾向は確認しておいた方が良いと思う。

*1エコノミストの上念司氏が「アベノミクスで14年度の自殺者大幅減!」と言うブログのエントリーをツイートしていた。

*2経済・生活問題が動機の自殺者数と完全失業率の相関関係は高いと言う話もあるのだが、健康問題が動機の自殺者数も何故か増減が大きく、統計の信憑性が低い(以下、平成25年版「自殺対策白書」特集 第3節 図3を参照)。統計上の動機は死んだ本人が申告しているわけではなく、周囲の推測でしか無いと言う事であろう。

1 コメント:

WLK さんのコメント...

>実は計量分析で景気と自殺率の関係を割り出すのは、かなり苦労する。そして推定される効果量も、意外と小さいものだったりする

性別年齢階級別に分解すると自殺死亡率の長期の傾きは正負混在しています。ご参考まで。
http://www.ism.ac.jp/risk/suicide/visualize/pdf/fig2-b.pdf

男性の場合を年齢効果・時代効果・コーホート効果に分解した研究では、時代効果の最大値は年齢効果、コーホート効果の最大値より小さくなっていました(2004年の論文)。これもご参考まで。
http://www.hws-kyokai.or.jp/pdffiles/200402-03.pdf


>統計上の動機は死んだ本人が申告しているわけではなく、周囲の推測でしか無いと言う事であろう。

これについては
精神保健研究
ISSN 0915-065X
第16号(通巻49号)Supplement ~自殺学特集~ 平成15年(2003年)
http://www.ncnp.go.jp/nimh/pdf/kenkyu49_sp.pdf
p.11で次のように書かれていました。
「しかし、その信頼性には問題も残る。というのも、自殺の動機というのは、複合的なものであることがほとんどで、一つの動機に分類するのは極めて難しいこと、また、既に亡くなってしまった方に動機を改めて聞くことは不可能であり、したがってこの動機は、あくまでも遺書や周りの人への聞き取りや遺留品からの推測に過ぎないからである。動機別統計は、性別や年齢、配偶関係といった社会的属性別の統計に比べると客観性は低いことを念頭においた上で、しかしながら、この警察庁「自殺の概要」に掲載されている統計は、自殺の動機という自殺学上の重大な問題に対して参考になる資料であることは間違いない。」

また、
こころの科学 (2004年11月号) 118号
http://www.nippyo.co.jp/magazine/3815.html
p.15では次のように書かれていました。
「 自殺の原因や動機を考えるうえで、この準備状態と直接の契機の双方を検討しなければならない。きわめて深刻な出来事を契機として、突然自殺が生ずることも時にはあるのだが、現実には長期間にわたって徐々に準備状態が形成されていくほうが圧倒的に多い。
 このように、警察庁の分類した動機を考えていくうえで、いくつかの問題点を念頭に置いたうえで、データを見ていかなければならない。
 というのも、精神医学や心理学の訓練や知識が十分ではない警察官によって集められたデータであるので、どちらかといえば表面に現れている原因を拾い出している可能性が高い。また、数多くの原因のうちで、あえてひとつの動機を取り出している点についても配慮する必要がある。
 たとえば、「健康問題が第一位の原因となっているが、一九九九年の統計までは、「病苦」、「アルコール症を含めた精神障害」といった分類がなされていたのだが、それ以後、その両者を合わせて、あらたに「健康問題」としてひと括りにしている。身体疾患を苦にしたものか、精神疾患に悩んでいたのかさえわからない。
 また、「経済・生活問題」が動機の自殺も一九九八年以後、つねに大きく取り上げられている。これは否定しようのない事実であるのだが、未曽有の「平成大不況」といった情報に一般の人々と同様に毎日接していた警察官が、自殺の動機を分類するにあたって影響を受けた可能性も考えられる。
 このように、まず、個々の自殺例を単一の動機だけで分類してしまうことは大きな問題点をはらんでいるので、警察庁の統計だけから自殺の動機をひとくくりにして解釈することには問題が多い。あくまでも参考資料とすべきであるだろう。」

なお、平成18年中における自殺の概要資料
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H18/H18_jisatunogaiyou.pdf
表4 原因・動機別自殺者数
では、
総数32,155のうち遺書あり10,466について原因・動機別の数字を載せていたのが(遺書なし21,689は原因・動機別には含めていなかった)のが、
平成19年中における自殺の概要資料
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H19/H19_jisatunogaiyou.pdf
表4 原因・動機別自殺者数
で、総数33,093のうち原因・動機特定者23,209で原因・動機不特定者9,884となっていて、
平成18の「遺書なし」21,689が平成19の「不特定者」9,884と半減しています。
自殺統計原票の改正で
平成18まで
「「遺書あり」の自殺に関して、主たる原因・動機1つを選択して集計」
平成19から
「遺書等の自殺を裏付ける資料により明らかに推定できる原因・動機を3つまで計上」
と変更した際に、「遺書」ではないが「遺書等」に含まれるものを増やしたと推測されます。

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