2014年11月9日日曜日

終身雇用制度の発生時期と、専業主婦というロールモデルについて

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労働問題の専門家の濱口氏がツッコミそうな内容ではあるけれども、人事コンサルタントの城繁幸氏が「専業主婦も終身雇用も割と最近の流行りもの」と言うエッセイで終身雇用というシステムの発生について説明しているのだが、問題点を指摘したい。タイトルの部分はともかく、本文の細部に問題がある。城氏がいた頃の大学はレジャーランドで、何かを調べてから議論することを教わらなかったのであろうか。

まずは論理的な問題を指摘したい。解雇規制がそのまま“終身雇用というシステム”になっている。恐らく終身雇用が何を意味しているのか、真面目に考えたことが無いのであろう。厳しい解雇規制があっても、転職が活発であれば終身雇用にはならない。雇用の終了は、従業員の側から切り出すこともできる。新卒一括採用と、勤続年数に比例した賃金制度と昇進メカニズムが転職を抑制しているところも考慮しないといけない。

次に歴史の問題を指摘したい。解雇権濫用の法理が確立されたのは終戦から昭和30年頃(1955年)までなので、高度経済成長期(1954年~1973年)に新しい流れが出てきて、『裁判所は「(どうせ業績が悪くても一時的なものなのだから)企業はよほどのことが無い限りは解雇しちゃダメ」という判例をどかどか量産し始めた』と言うのは時代が合わない。なお勤続給や定年制度も高度経済成長期から普及が始まり、新卒一括採用は戦前から大企業から導入が進んだそうだ。

さて、城繁幸氏に対して山本一郎氏がツッコミを入れているのだが、こちらにも幾つか気になる所がある。「そもそも終身雇用の傘の中にいる被雇用者はもっとも多い時代でも8%ぐらいしかいなかった」はその通りで、重要な指摘だと思う。しかし、『「雇用」という形態が一般化するのは終戦後から』は戦前も昭和に入るぐらいには被雇用者は大量にいたわけだし、そもそも雇用習慣の比較なのだから、戦前は雇用されるのが少数だとしても、比較に問題はないはずだ。「昔から女性が家庭の仕事をするのは世界中で一般的だった」も、高度成長期に女性の労働参加率が下がった*1事を無視している。『「嫁は家庭で専業主婦というロールモデル」とかいう謎の言説を裏付けるデータはどこにもなく』は、女性の定年が30歳だった*2り、女子結婚退職制が存在した*3ので、認識不足であろう。

少なくとも歴史的な事実関係の誤認は、濱口氏の「日本の雇用と労働法」でも読んでおけば、随分と防げると思うので、こそこそと読書する事をお勧めしたい。

*1厚生労働省 雇用均等・児童家庭局 「平成16年版 働く女性の実情」のあらまし』の図表1を参照。

*2昭和44年の東急機関工業事件とその後の裁判で無効判決。

*3住友セメント事件で昭和41年に無効判決。

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