2014年10月24日金曜日

イスラエルでは少人数クラスの方が好成績!

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イスラエルでのクラスの人数と成績の関係を分析した論文Angrist and Lavy(1999)が話題になっていたので、ざっと眺めてみた。どこの世界にも親馬鹿がいて、成績の良い子を少人数クラスの学校に転入させようとしたりするので同時性の問題が発生し、信頼性のある計量分析が難しい。しかし、イスラエルではマイモーン・ルールと言う機械的な人数決定方式を採用しており、また私立学校が極めて少ないので、これを上手く使う事でこの同時性の問題を解決しようとしている、目の付け所が売りのペーパーだ。QJEなので一流誌。

1. 肝はマイモーン・ルールを使った操作変数法

最初にマイモーン・ルール(MAIMONIDES' RULE)は、学童25人までは1人の先生、学童40人までは1人の先生と助手、41人以上はクラスを分割すると言うものだ。このルールで、期首の入学者数から自動的に各学校のクラス人数を計算する事ができる。ただし、クラス人数が多いと親が転居で学区を変えたり、デキの悪い学童が多い学校だと校長判断で少人数にしたりする事がるので、実際のクラス人数とは乖離が出る。しかし、マイモーン・ルールで計算された人数は、親や校長の行動に影響されない外生変数になるため、これを操作変数法(二段階最小二乗法)による推定に加えることで正しくクラス人数の成績に与える効果を見ることが出来る。

2.信頼の置ける頑強な推定結果

他には障害者の比率や、都市部大規模校の方が成績が良いので、入学者数が説明変数に加えられている。サンプルとしては、1991年の4、5年生と1992年の3年生の年度末の学力テストのデータを用いている。回帰分断モデルになるので、サンプルを絞ったり、区分線形モデルも推定したり、頑強性を確かめたりもしており、操作変数と内生変数の相関は高く、また単なるOLSとの推定結果の差は大きく、推定結果の信頼性は高いであろう*1。V節Aでも推定結果の妥当性を議論している。

3. 4年生と5年生で少人数クラスの効果を確認

推定結果を見ると、読解と数学のテストで人数が多くなるほど点数が下がる傾向が確認された。5年生の所をみると平均点は読解74.4点、数学67.3点で、クラス人数の係数は-0.275(95%信頼区間-0.404~-0.146)と-0.230(95%信頼区間-0.410~-0.050)と言ったところか。20人クラスを40人にすると読解を5.5点、数学を4.6点ほど下げることになる。4年生だと平均点は読解72.5点、数学67.3点で同じ程度だが、クラス人数の効果は-0.133(95%信頼区間-0.249~-0.017)、-0.050(95%信頼区間-0.187~0.087)と効果が弱まる*2。なお、3年生では有意な効果が無かったそうだ。

4. 絶対的な信頼性がある分析手法ではない

ここから感想。イスラエルでは少人数クラスで成績がアップしたとは主張できる。ただし、低学年の方が効果が薄いのは他の先行研究と合致しないような気がするし*3、クラス人数が多いときは助手がつくらしいので、教員一人当たりの学童数を意味しない事には注意が必要かも知れない。さらに、クラスの期首の人数と期末の人数を見ているわけだが、親が教育熱心であったらもっと低学年のうちに学区を変えておいて、高学年の年度中に引っ越すことは少ないのでは無いかとも思う。もちろん社会科学の研究は望ましいデータがないから、ちょっと疑惑の残る推定をするしか無いときが多いわけだが、盲信するのは危険な所もある。

*1明確に書いてはいなかったが、弱相関テストとDWH検定はパスすると思われる。

*2TABLE IVとVの列(2)と(8)を参照し、標準誤差から信頼区間を計算した。

*3教育政策のかなめ教員政策を考える――限られた予算で高い教育効果をあげるために」を参照。なお、カナダでは少人数教育は効果が低かったという話もある(関連記事:少人数クラスより、昔ながらの数学教育)。

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