2014年10月12日日曜日

消費税率引き上げの景気への影響はどの程度?

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雇用情勢は引き続き堅調に思える*1が、消費税率引き上げで不況になったと言う言説は良く見かけるようになったし、内閣府も景気判断を下方修正し、先行きに不透明感はある。しかし、実際にどのように不景気なのかが曖昧な気がするので、SNSでの言い争いに備えて関係ありそうなデータを整理してみた。景気の先行きに不安はあるのだが、とりあえず消費税率引き上げの影響は限定的なように思える。

1. 消費減少は限定的

消費税率をかけると消費が減ると言う人は多い。これは間違いでは無く、教科書的なラムゼー・モデルでも消費が減って投資が維持される事になっている。問題は、駆け込み需要の反動がどれぐらい続くのか、恒久的な消費減少がどの程度続くかだ。これを確認するために、小売業販売額を税抜き金額に補正したグラフを作成してみた。

まずは駆け込み需要の反動だが、だいぶ解消されている事が分かる。2014年4月には昨年比で-6.99%と大きな反動があったが、8月には-1.58%にしか過ぎない。8月の消費者物価指数(CPI)の上昇率は3.3%だが、消費税率引き上げの影響を除くと0.43%に落ちるし、コアコアCPIを見るとむしろ-0.54%とデフレなので、数量的にもこの程度の影響と見ていいであろう*2。1997年と比較しても、消費は意外性のある動きをしていない。

2. 投資は減少していない

投資の影響はどうであろうか。上図は民間有形固定資産形成*3の昨年からの増加をプロットしたものだ。季節調整のため変則的な値を用いており、また減価償却の影響を受けているが、投資の活発さを見るのには十分だと思う。さて、1997年も投資は1年ほどは増加傾向にあったのだが、今回の消費税率引き上げ後も、投資は堅調である。確かに水準はリーマンショック前には戻っていないが、増税したから減ったわけではない。

3. 鉱工業指数は減少中

消費や投資の傾向からは意外なのだが、鉱工業指数の昨年度比は減少し続けている。ただし好調だったのが2月ぐらいから低下に転じているので、消費税率引き上げとの関係は良く分からない。出荷が1997年のときよりも明らかに悪く、生産調整で何とか在庫増加を1997年と同程度にしている感じだ。

4. 輸出は緩やかに減退中

円安になって拡大する事が期待された輸出だが、今のところは緩やかに減退する傾向が続いている。欧州やアジアでの景気後退が理由ではないかと思われる。1997年のときはアジア通貨危機でその後数年間は輸出数量が減り低調な傾向が続いたが、今回も数量で見ると似たような傾向になっている。円安で金額ベースではマシなのだが、工場の稼働率などを増やすには至っていないように想像される。

5. 内需よりも外需が心配な状況

今のところは消費税率に影響を受ける内需は意外に堅調で、消費税率に関係ない外需が弱い傾向が続いており、それによって鉱工業指数も低調なように思える。消費が原因であったら、鉱工業指数はだんだんと良くなって来ているはずだからだ。もちろん多変量解析をしているわけではないし確定的な事は言えないが、消費税率引き上げで不況になったと言うのも無理がある。そもそも雇用統計を見ると不況とは言い難い傾向が続いているわけだし、不況と言う言葉は後にとっておいた方が良さそうだ。ほら、中国経済で何かが起きて、その余波で本当に不況になったりするかも知れないし。

*12014年9月の完全失業率は3.5%でここ10年間でもっとも低い水準を維持している。就業者数や雇用者数も増加傾向にある。

*2ただし、高齢化で消費が拡大、投資が縮小する傾向から考えると、影響を少し過小評価している。

*3無形固定資産は相対的に額が小さく数%なので、ほぼ有形固定資産の推移を表している。

4 コメント:

Unknown さんのコメント...

小売業販売額前縁費がマイナスのままで回復していないのは、どう考えても消費が堅調とは思えないです。
消費が堅調なら、輸入も依然として堅調なはずですが、輸入も落ち込んでいます。
鉱工業生産指数も2月からではなく、3月、4月に落ち込んでますよね。

uncorrelated さんのコメント...

>>HeroineFactory Candy さん
> マイナスのままで回復していない

マイナス幅、減ってきていますよね?

> 消費が堅調なら、輸入も依然として堅調なはずですが、輸入も落ち込んでいます。

日本は加工型輸出産業なので、輸入と輸出がリンクしますね。

> 鉱工業生産指数も2月からではなく、3月、4月に落ち込んでますよね。

2月から昨比が落ちてきているのは分かりませんか?

Unknown さんのコメント...

>2月から昨比が落ちてきているのは分かりませんか?

 落ちていません。
 2,3月が平常です。
 1月が異常に高いんです。
 こちらに2009年度から2014年度までの鉱工業生産指数の一覧表がありますので、見てください。
http://www.nikkei.com/biz/report/kougyo/

2013年9月~2014年3月をみると、」鉱工業生産指数の前年比は 5.2~7.2ぐらいトレンドで、2014年度1月の10.6が例外的に大きいことが判ります。
1月は在庫指数を見れば判るように、在庫が急に減ったので生産を増やしたことが判ります。
なので、前後のトレンドは7.0~7.4で安定しています落ちつています。
それが2014年4月では3.8、2014年5月では1.0と急減しています。
明らかに2月から落ち込んでいるのではなく、消費税増税が施行された4月から急減しています。
6月では3.1とすこし回復していますが増税直後よりも下です。7月はマイナス0.1 8月はマイナス3.3とさらに下降トレンドになっています。
2013年9月から2014年3月までの順調な上昇トレンド(5.x→7.x)に比べると、4月を境に急激な下降トレンドへ転じているのは明らかですし、それが4月に起きていることも明確です。

uncorrelated さんのコメント...

>> HeroineFactory Candy さん
>  落ちていません。
>  2,3月が平常です。

すると昨年は異常に低かったということになりますよ。
なお傾向ではなく水準で見ると、前年比で明確に出荷が下回るのは、8月になります。

> こちらに2009年度から2014年度までの鉱工業生産指数の一覧表がありますので、見てください。

エントリー中のグラフをどうやって作ったか、考えてみてください。

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