2013年10月14日月曜日

高校で数学を勉強しなかった人のための「経済学で出る数学」

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何かと教育再生実行会議が話題だが、日本の文系学部が死に体になっている理由の一つに受験科目があると思う。数学が無いと何も出来ない時代なのだが、受験科目に数学が無いためか極端に数学に弱い学生が存在し、それにあわせて講義内容がおかしくなっているケースもあるようだ。

根本的な解決策として受験科目に数学を課したり、高校卒業試験を設けたりして、数学を勉強させたりすることが考えられるが、留学生などで母国で受けた数学教育が十分でないケースも存在する*1ので大学側で補習的な数学教育を準備する必要があるであろう。そういう時の教材に『(改訂版)経済学で出る数学 高校数学からきちんと攻める』は優れていると思う。

何が優れているかと言うと、経済学の文脈から離れ無いようにしつつつ、微分や積分などをゼロから説明しようとしている。説明は工夫されており、例えばテイラー展開の説明は公式の暗記もしくは機械的な証明に頼りたくなるが、なるべく直感的に受け入れられるように詳しく書かれている。2ページも使うなら証明できるわけだが、あえてそれはされていない。

『第10章 積分とオークション』を見てみよう。入札参加者二名で一様分布を仮定してのものだが、積分と確率分布の説明から始めているのに、ナッシュ均衡で入札価格を求める所まで話が完結していて面白い。オークション理論の面白さを世間に知らしめようと言う無理矢理感に溢れている。

切り捨ててあるものは多い。厳密な証明や発展的もしくは周辺部の議論はほぼ省略されており、末尾の『文献案内』に託すことになっている。例えば『第8章 行列と回帰分析』は、行列式や固有値の説明がすっぽり抜けているし、逆行列も計算方法などは紹介せず、表面的な紹介に留めている。

数学書としてはかなり極端なモノになっていると思うが、著者たちは周到に考察した上で内容を選んでいると思う。巻末に学習指導要領の変遷が資料としてあるのだが、俗に言う文系の高校生が何を学んでいるのかを詳細に検討したという事なのであろう。“文系”の知識と、微分積分、線形代数、確率・統計など一般教養の科目をつなぐ教材になっていると思う。

教育再生実行会議が人間力などと言うそれが何なのか怪しい議論をしているわけだが、大学教育を実際に改善していくのは、こういう教材の工夫やカリキュラム構成の見直しになると思う。地に足がつかない事を議論していてもはじまらない。そう言えば日本の大学は国際化を目指しているらしいので、本書の中国語/タイ語/ベトナム語版も待たれる所だ。

*1日本に来る留学生は、英語に加えて日本語を学習してくるので、必然的に数学が弱くなりがちのようだ。

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