2013年9月11日水曜日

韓国司法の背景と論理を整理しても

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ラジオで専修大学の石村氏と山口県立大学の浅羽氏が「韓国司法と戦後補償」と言う御題でラジオに出演していた。番組は韓国の最高裁である大法院が韓国人の戦時中の労働に関して、条約で解決済みだと明記してあるのに個人請求権を認めた事に関してのものだ。相手を論破するためにも韓国側の背景と論理を理解しましょうとの事だが、拝聴した限りは良く分からなかった。韓国併合は無効だと言う韓国側の主張が、なぜ判決に影響するのであろうか?

1. 日韓請求権並びに経済協力協定

1910年に日本は韓国を併合したのだが、日本が合法で有効だったと主張する一方で、韓国政府はそれを違法で無効だったと主張している。1965年の日韓基本条約では韓国併合の有効性に統一見解を保留しており、その上で「日韓請求権並びに経済協力協定」(以下、請求権協定)が結ばれて、日韓両国の政府及び個人・法人間の請求権は完全かつ最終的に解決されたと言う事になっている。

2. 韓国大法院の請求権協定の解釈

ところが近年になって韓国司法が、これまでの日韓の合意事項を引っくり返す判断を下してきた。韓国大法院が何を言い出したかと言うと、時効や管轄権などのテクニカルな部分を除いたポイントは、以下の二点になると思う(菊池(2012))。

  1. 請求権協定は、サンフランシスコ講和条約に基づく植民地支配の終了のための清算であって、植民地支配に関する賠償請求権は規定していない。
  2. 国民個人の同意なくその請求権を消滅させることができると見るのは、近代法の原理に反するので、請求権協定は個人請求権を最終的に解決できない。

なお、ラジオでは(1)が強調され、(2)が無視されていた。

3. 単純解釈では韓国大法院の主張は意味不明

この二つの主張は、理解し難い。(1)は「サン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて」とあるので、不当に範囲を絞っているように思えるからだ。(2)は明らかに、韓国政府の外交能力を限定しており、日韓の外交交渉自体を不可能にしている。

4. 韓国大法院の主張する法理

こういう結論に至ったのは、恐らくjus cogens(強行規範)にたどり着いたからだ。これは民族虐殺などは条約などで合法化できないという国際法上の概念で、つまり日本の植民地統治はナチス・ドイツのユダヤ人への行為などと同様だと韓国では見なしていると言う事になる。

韓国高裁の判決文では、1965年の経済協定締結時の議事録には被徴用韓国人の未収金・補償金も含まれることを確認しているが、2005年の韓国の官民共同委員会で「日本の国家権力が関与した反人道的不法行為には、請求権協定で解決されたと見ることができない」と公式意見が表明されたことにも言及している。

戦時徴用が反人道的不法行為なのかが疑問はあるが、韓国政府は従軍慰安婦、原爆被害者、サハリン残留韓国人を反人道的不法行為と認定しているので、同様の理屈を当てはめたと考えれば、少なくとも韓国司法の判断に一貫性は認められるわけだ。

5. それでも韓国側の主張は理解できない

浅羽氏はラジオで繰り返し、韓国憲法が植民地支配が無効であると主張していると紹介していた。浅羽氏は明言していなかったが、そこから日本の植民地統治が強行規範に反すると考えるようになり、請求協定に植民地支配に対する賠償請求が含まれないと結論したことは想像ができる。しかし、それでも韓国側の主張には論理の飛躍がある。

韓国併合の有効性と反人道的不法行為は関連した議論なのであろうか。ナチス・ドイツがユダヤ人に行った行為は、その統治権に関係なく強行規範に反すると考えられているはずだ。また、当時は日本人も徴用されているし、戦時動員自体は英国でも行われていたので、それを反人道的不法行為と認定するのは無理があるように思える。

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