2013年7月16日火曜日

雇用規制と少ないIT投資を結びつけると言うことは

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二度もフィッシング詐欺にひっかかりアカウントを乗っ取られた経済評論家の池田信夫氏が、「IT産業より遅れているITユーザー」と言うエントリーで、日本企業は雇用確保のために、情報通信技術(ICT)への投資が少ないので、海外と比較して全要素生産性(TFP)が上昇せず、不況になっていると主張している。かなりおかしい議論になっている。

  1. ICT投資でTFPが上昇すると言うことは、労働の限界生産物も上昇する事になるので、ICT投資と雇用のトレードオフに直面しない。需要が一定でなければ、ICT投資と雇用の拡大が同時に起きる。日本企業は雇用規制を理由にICT投資を抑制しなくていい。
  2. 日本の賃金に対しての見解が一貫していない。池田信夫氏は日本の賃金が下がったためにデフレになったと強調してきている*2ため、今までは収縮的だと言っている。しかし、今回は『正社員の人件費は固定費』とそれを否定している。
  3. 『正社員の人件費は固定費』であったとして、『だからIT投資をする代わりにパートの主婦を安い賃金で雇うのだ』は支離滅裂に思える。正社員の代わりにパート主婦ならば理解できるが、ICT投資を控えてパート主婦を増やす理由にはならない。
  4. 『正社員の人件費は固定費』であったとして、過去のしがらみの無い新規参入企業がICT投資を多く人件費を少ない経営をしたら、既存企業は駆逐される。支配的な企業が君臨し続ける事を安易に仮定するのは、マルクス経済学の世界観に思える。
  5. 雇用規制を緩和したとして、ICT投資が増えるようには思えない。下図のように、労働コストが下がって、予算制約線(A)が予算制約線(B)に変化するため、資本-労働投入のバランスはA点からB点に移動する。労働投入量が増えて、資本投資が減ることになる。

経済学を学んでいない人、もしくは共産主義者が良くする誤信で、雇用規制を強化すれば雇用が増える、もしくは減らないと言うものがある。従業員が余っていても解雇が出来ないケースは出てくるから、個別の企業で過剰な雇用を生み出す効果があるのは確かだ。しかし、経済全体では、解雇の難易度を考えて新規雇用を抑制する事になる。

雇用の抑制は、資本、ここではICT投資を増やす事になる。雇用規制を緩和すればICT投資が増える(=雇用が削減される)と言う主張は、雇用規制の強化と雇用拡大(=ICT投資の縮小)を訴える共産主義者と同じロジックなのだが、池田信夫氏はそれに気付いているのであろうか?

*1池田信夫、自らのメールアカウントを乗っ取られ今日も見事な醜態を晒す」を参照。

*2デフレの原因は名目賃金の低下である」と主張している。なお、データを見ると賞与や残業代の下落は大きいのだが、所定内賃金の変化は大きくは無い(関連記事:日本の賃金水準の変化を確認する)。

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