2013年1月28日月曜日

ICRPが防護基準で疫学的リスク計算を否定する理由

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疑似科学ニュースで、ICRPの防護基準であるしきい値無し直線(LNT)仮説に従って疫学的リスク計算をするが間違いな理由を、「意味がないからではない。影響が大きすぎるからだ」と言っているが、統計学的な“感覚”が掴めていないように思える。

低線量被曝のリスクは、控えめに言うと確認されておらず、断定的に言うと無いと思われている。3万弱の観測数がある疫学データは膨大だ。それで出てきた100mSv被曝時の発ガン率は1.064倍だが、95%信頼区間では0.974倍~1.154倍*1になってしまう。健康になる確率があるぐらい、誤差が大きい

1.064と言う数字は、他の発がんリスクと比較するとかなり小さい。しかも誤差はかなり大きく、危険性ゼロを統計的に棄却する事もできない。代替医療の治療効果だったら効果無し!と断定されるであろう。高線量で健康被害があるから危険性ゼロと言わないだけだ。信頼の無い数字で、何かのリスクを計算しても意味が無い。

信頼性の無い数字を何故扱っているかと言うと、他に妥当な防護基準が存在しないから*2。便宜的に採用している基準なのだから、そこから疫学的リスク計算をしても意味がある数字は出てこない。低線量でのLNT仮説など、疑似科学でしか無いのだよ。だからICRPは、以下のように明言しているわけだ(NHK追跡!真相ファイルについて)。

The collective effective dose quantity is an instrument for optimisation, for comparing radiological technologies and protection procedures, predominantly in the context of occupational exposure. Collective effective dose is not intended as a tool for epidemiological risk assessment, and it is inappropriate to use it in risk projections.(集団実効線量は、主に職業被曝の文脈で、放射線防護の技術や手順を比較し、(放射線防護を)最適化するための道具である。集団実効線量は疫学的リスクを計算するためのものではないし、それを使って将来のリスクを推測するのは不適切である)

追記(2013/01/30 17:00):返信が追記されたので、さらに返信。

集団線量を否定するならLNT説も否定されなければならない。LNT説の信憑性と集団線量の信憑性は等価。

何かの基準がいると言うだけだから、集団線量もLNT仮説も科学的に肯定されている必要は無い。

*1100mSv以下の観測数27,789の係数0.64、標準偏差0.55からt分布を仮定して計算。

*2防護基準で低線量被曝にも、LNT仮説を採用させる根拠は三つあるようだ(BEIRⅦ報告書 【翻訳】)。(1)広島・長崎LSSデータ、(2)オックスフォード小児がん調査(Oxford Survey of Childhood Cancer)、(3)放射線生物学の細胞DNA損傷に関する研究。ところが三つとも、科学的に低線量被曝の健康被害を示せていない。

広島・長崎LSSデータは100mSv未満の被曝量での健康被害に関して、統計的に有意な健康被害を示せていない。オックスフォード小児がん調査は、母体がX線検査で10mSvの被曝を受けた子どもの小児がんリスクが1.5倍になると言うものだが、そもそも母体がX線検査を受けているので先天的な問題を抱えている可能性がある(中村(2007))。放射線生物学の細胞DNA損傷に関する研究は、DNA損傷を示す事ができているが、DNA修復機構の評価ができていない。最近の研究(MITnewsBerkeley Lab News Center)では、低レベルの被曝ではDNA修復機構は効率的に機能する事が示されつつある。

加えて言えば、チェルノブイリの経験(金子(2007))やネズミでの実験結果(S. Tanaka et al.(2003)ATOMICA)も、低線量被曝の危険性を否定している。LNT仮説に関する論争は色々あるが、どちらかと言うと懐疑的にとられていると考えて良いであろう。ラムサールやガラパリの高線量地域に住んでいる人々の存在や、1日当たり1mSvと言うISS滞在宇宙飛行士の被曝量(JAXA)も、LNT仮説に疑問を投げかけている。

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