2013年1月27日日曜日

デフレの原因は名目賃金の低下である? ─ 内生変数では?

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経済評論家の池田信夫氏が「デフレの原因は名目賃金の低下である」と主張している。吉川洋氏の「デフレーション―“日本の慢性病"の全貌を解明する」の表紙の写真があり、文中に唐突に「著者もいうように」と出てくるので、吉川氏の主張なのかも知れないが、池田氏のエントリーからは根拠が良く分からない。

1. 名目賃金は内生変数

マクロ経済モデル、例えば標準的なRBC理論で考えると、外生的に与えられるのは、生産関数、効用関数の形状と、全要素生産性と人口ぐらいになる。賃金は内生的に定まるので、池田氏が主張するように硬直性が無いのであれば、何かの原因にはなりえない。

2. 浜田氏は失業率が高いと判断している

さらに指摘しておくと、著名マクロ経済学者の浜田宏一氏の名目賃金の議論を曲解している。浜田氏が「名目賃金はむしろ上がらないほうがいい。名目賃金が上がると企業収益が増えず、雇用が増えなくなるからです」と言っているのは、雇用水準が上がる余地があると考えているためだ(ダイヤモンド・オンライン)。デフレの原因がそれだとは言っていない。

教科書的なミクロ経済学にはなるが、実質賃金と失業率がトレードオフの関係があると思われるので、構造失業率よりも実際の失業率が高ければ、浜田氏の主張は実証的な裏づけがある事になる。上図は内閣府の「今週の指標 No.1032」にあったものだが、3.0~3.5%の間に構造失業率があるように思える*1

3. 名目賃金の下方硬直性が無いなら失業率はもっと低い

もし池田氏(吉川氏?)が言うように、日本の労働者が雇用を守るために名目賃金の賃下げを積極的に受けいれているとすれば、構造失業率からの乖離は何故起きたのであろうか。ゆえに、ブログのエントリーに書かれた内容からは池田氏の主張に説得力は無く、むしろ浜田氏の発言の方が根拠があるように感じる。

4. 流動性の罠の話はどこへ?

ところで池田氏は「デフレで不況が悪化するのは名目賃金の下方硬直性があるときに限られる」と言っているが、ゼロ金利制約の弊害については忘れてしまったのであろうか。以前は「流動性の罠がほぼ唯一のデフレの弊害」と言っていたはずなのだが*2

*1OECDのインフレ非加速雇用水準(NAIRU)は4.3%なので、こちらを採用するのであれば雇用水準は高い事になる。ただし、浜田氏は多少のインフレ率の上昇は問題としないようだ。

*2関連記事:池田信夫の錯乱 ─ デフレの弊害はあるの無いの?

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