2012年12月9日日曜日

三橋貴明は日銀総裁を批判すべき点すら分かっていない

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

経済評論家の三橋貴明氏が白川日銀総裁を批判しているが、おかしい事になっている。

2010年11月4日の講演で言及された、労働力人口の減少の影響に納得がいかないらしい。一般向けの講演だから明確に説明していない所もあるから、勘違いしているようだ。

労働人口が減っていることが問題ならば、デフレではなく「インフレ」になるでしょうが・・・・。こんな子供でも見抜けるような「ウソ」を平気で口にする日銀総裁を存在させている時点で、日本の政治は病んでいます。

労働力人口の減少は、供給も減らすし、国民所得の低下をもたらすので、需要も減らす。だから、これだけではデフレ要因ともインフレ要因とも言いがたい。しかし、どちらかと言えばデフレ要因であろう。

ノーベル賞経済学者の書いたDiamond(1965)の教える所によれば、均衡実質金利の低下をもたらす。均衡実質金利がマイナスになったら、流動性の罠にはまるのでデフレであろう。

実際に均衡実質金利がマイナスまで行くのかは未解明な部分もある*1が、これまたノーベル賞経済学者のクルッグマンのIt's ba+k!論文(山形浩生訳)では、以下のように記述されている。

(2.5 投資、生産資本、q)人口学者の予測では、来世代の人口はいまの世代の人口より小さくなると予測されたとしよう。だから労働力も、そして(労働の需要が弾性的だとして)土地の実質価格も下がる。もしそうなら、土地はプラスの限界生産を持つけれど、土地への投資の期待収益は、原理的にマイナスになり得る。

まだ利用できるけれども不要になった資本、つまり過疎化地域の鉄道や道路、店舗などが前倒しで償却されていると考えても良いであろう。

実際のデータを確認しよう。生産年齢人口の減少は、確かに発生しているし、今後、加速していく(日本の将来推計人口(平成24年1月推計))。

G7で見ると労働力(=就業人口+失業人口)成長率とインフレ率には、緩やかだが相関関係が見られる。つまり決定係数は低いが、係数も有意性はある。日銀によればOECD23か国でもこの傾向は見られる*2

三橋氏が「すごくいい」と称えていたクルッグマンと、三橋氏が『子供でも見抜けるような「ウソ」を平気で口にする』と批判する白川日銀総裁は、人口減少デフレ論では見解が近い。理由は異なるようだが、単純な現在のマネタリーベースの拡大に否定的な面も共通している。

ただし、クルッグマンがインフレ期待をコントロールすることでデフレ脱却を提案している一方で、白川日銀総裁はインフレ期待のコントロールには消極的だ。著名なマクロ経済学者である伊藤隆敏氏も、「インフレ期待に働き掛けることについても非常に消極的だった」と日銀総裁を批判している(Bloomberg*3

追記(2012/12/10 03:19):経済学者のDean Bakerの記事で、老人は蓄えた富を消費にまわすので高齢者層は貯蓄率が低くなり、現役世代の比率が少なくなるとGDPにおける消費の割合が増えて、インフレの恐れがあると指摘していると、コメントがあった。

クルッグマンや白川総裁が指摘しているのは生産年齢人口の減少が予測されて投資が減り、現在の生産に不足は無い状況。Bakerが指摘している生産年齢人口の減少が起きて生産が減ってしまった状況だ。また、Bakerの議論では流動性の罠は考慮されていない。

*1平田(2012)「人口成長と経済成長:経済成長理論からのレッスン」金融研究 第31巻第2号

*2駒沢大学の飯田氏はIMF定義の先進国で見て相関が無いと指摘しているが、IMF定義ではシンガポール、キプロス、マルタ、サンマリノ、ルクセンブルクなど、貿易依存率が高そうな小国経済が多く含まれるので、ここでは無視する。

*3インフレ期待のコントロールは、実際にどこまでできるのかは議論がある。

2 コメント:

匿名 さんのコメント...

「労働力人口の減少はデフレ要因ともインフレ要因とも言いがたい」というのはこのブログに不適当な定量性を欠いた文だと思います。
また、投資の減少が期待しているのは「人口の減少」であるのに対し、現実に観察されているのが「労働力人口の変化とインフレ率の相関」であり、モデルとしている変数に混乱があります。
三橋氏の発言は知りませんしどういうバックグラウンドでそう言っているのかも分かりませんが、生産が減って需要がそのまま(=労働力人口の減少)であれば、インフレになるのは単純なモデルとしてはその通りだと思います。
にもかかわらず現実に観察されているインフレ率がそうなっていない原因は、自然の摂理ではなく何らかの人為的な要因に求められるのではないでしょうか。
例えば、デフレが有利である高齢者が有権者で多数派となるとデフレ政策が支持されやすくなる、など。極端な例では超大規模な公共事業である戦争を起こしたいのは失うべき資産が少ない若者の方が多い、といったように。

uncorrelated さんのコメント...

>>jsuser さん
> また、投資の減少が期待しているのは「人口の減少」であるのに対し、現実に観察されているのが「労働力人口の変化とインフレ率の相関」であり、モデルとしている変数に混乱があります。

生産年齢人口減少による実質金利の低下を指摘しているのであって、人口減少による消費の低下を指摘しているわけではないです。
http://www.anlyznews.com/2012/12/blog-post_9.html

> 生産が減って需要がそのまま(=労働力人口の減少)であれば、インフレになるのは単純なモデルとしてはその通りだと思います。

生産が減ったら所得も減るので、需要も減りますね。

コメントを投稿