2012年12月5日水曜日

最低賃金について実効性のある議論をするために

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日本維新の会が最低賃金を取り上げたので、最低賃金の是非について話題があるようだ。しかし、全般的に議論に混乱が見られる。最低賃金だけ取り上げるのは、アンフェアだ。同党は最低賃金の廃止*1と同時に、負の所得税による貧困者救済を主張しているので、実の所はリベラルになっている*2

そう言うわけで最低賃金だけの議論を展開するのは建設的ではないのだが、あえて議論を展開する場合は幾つか認識しておくべき事がある。

1. 最低賃金の機能は良く分からない

まず、最低賃金の機能については混沌としている。教科書的なミクロ経済学であれば、均衡よりも高い賃金水準は失業をもたらすであろう。しかし、労働組合を持たないパートタイマーに対して企業は独占力がある*3ため、最低賃金がそれに対抗する手段となりうるのであれば、失業なしで労働者の厚生を高めるかも知れない。「最低賃金制の役割と限界」を見ても、華々しい成果や派手な失敗をもたらしているわけでも無さそうだ。「OECDの最低賃金論再掲」が引用している部分でも、白黒をつけるような記述をされていない。

追記(2012/12/05 11:51):サービス残業はそれ自体が違法で、最低賃金で規制すべきものではない。サービス残業が問題になった場合は、割り増し賃金が支払われる。

2. 日本全体では大きな問題では無い

次に、労働者の時給分布を見てみると、最低賃金はほとんど機能していない事が分かる(都道府県別賃金分布と低賃金労働者の割合)。低賃金労働者の中でも最低賃金に近い賃金で働いているのは、全国で9%程度だからだ。首都圏だとこれより低くなる。埼玉県の分布を見てみよう。

低賃金労働者の大半は最低賃金より高い水準で働いている。最低賃金が機能していないように見えるので、維新の会の廃止論は実効性のある主張とは言えず、逆に存続論も実効性のある主張とは言えない。

3. 特定の県では問題になっている可能性がある

ただし、青森や沖縄では最低賃金付近の頻度が異常に高いので、事例を分析して議論する必要がある。以下は青森のケースだが、600円付近の分布が滑らかではない。

青森や沖縄の失業率は高く、影響が無いとは言えない(図録▽都道府県の失業率)。最低賃金を引き下げるべきと言う議論は、当然、あってもおかしくはない。

4. モデルケースを踏まえた議論を

四人の子持ちシングルマザーの生活支援には最低賃金はあまり役立たないであろうし、中国人農業研修生を酷使していた農家に労働対価を迅速に支払わせるには最低賃金は便利なツールになる可能性がある(人民日報)。他の制度の影響なども考慮しつつ、モデルケースを踏まえた議論をしないと、空論になりがちだ。是非を議論すべき部分は残っていると思うが、単純な廃止で問題が起きないのかは、丁寧な議論が必要であろう。

*1当初は「最低賃金制の廃止」としていたが、「市場メカニズムを重視した最低賃金制度への改革」に改めたようだ(毎日jp)。

*2家計には複数の稼ぎ手がいる場合も多く、一人が低賃金でも家計全体の困窮を意味しない。だから、最低賃金は貧困対策としては効率的ではない(関連記事:最低賃金は生活保護を下回ってもいい)。さらに、現在の生活保護制度は裁量的で、市役所職員の気分で生死が決定されかねず(毎日jp雨宮処凛)、所得ベースの機械的な基準の方が貧困者には有利になる。だから、日本維新の会の方針は、貧困者を向いた施策になりえる。

*3このパートタイマー労働者に団結力が無いので賃上げ闘争ができず、最低賃金が必要と言う主張に関しては、転職が容易で実際に最低賃金で働いている人は少数だと言う反論がすぐ出来る。

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