2012年12月29日土曜日

増税すれば総需要管理政策は維持可能

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経済評論家の池田信夫氏が、政府が有効需要を追加し続けないと元の均衡に戻るので、ケインズの「有効需要」の理論には論理的な欠陥があるとしている(BLOGOS)。複数均衡であり、低水準均衡から脱出するときだけ意味があるそうだ。

マクロ経済学の入門書に書いてある通り、増税と歳出増による総需要管理政策は維持可能なので、正確ではない。そして極値の一部を均衡と説明するのは、色々と誤解を招きそうだ。なるべく初歩的な計算で、有効需要政策がどういうものかを説明してみたい。

1. 需要不足の経済を描写

均衡が強く強調されているので、需要と供給が一致する均衡点を明確に考えて行きたい。まずは需要曲線と供給曲線、消費の最大化点を導出する。

1. 予算制約式
国民所得Y、消費C、投資Iを考えよう。消費と投資の合計は所得以下でないといけない。資源は全て使い切るとすると、Y = C + Iとなる。
2. 需要曲線の導出
所得Yは需要Dに等しくなるから、D = C + Iとなる。消費は所得の一定比率、つまり0から1の間の値をとる消費性向cで定まるとする。C = cY = cDになるから、D = cD + Iとなり、整理するとD = I/(1-c)となる。
3. 供給曲線の導出
元祖ケインズ経済学だと無限の生産能力を仮定することになると思うが、供給は投資Iによって定まるとしよう。供給Sは生産関数F(I)と同じものになる。また、投資量が増えるにつれて生産効率が落ちるとしよう。するとS=F(I)、F'(I)>0、F''<0となる。
4. 消費の最大化点
C = cYは置かないときに、消費を最大化する投資量Iを求めておこう。Y = C + Iを変形してC = Y - Iにし、所得Yは供給Sにも等しくなるのでY = F(I)を代入して、C = F(I) - Iにする。Iで一階微分してゼロになる事がCの最大化の条件だ。F'(I)-1=0、つまりF'(I)=1となるIが最適な投資量になる。1円分の追加投資で、1円分以上の追加生産が得られない場合は、もう投資を増やさない方が良い。限界を超えると、消費が減る。

ここでの均衡は、S=Dとなる点E1になる。消費を最大化する点はE2となる。E1とE2の差が、需給ギャップとなる。

2. 自動的に最適化される場合

注意深い人は、cが大きすぎて投資不足と言うことに気付くであろう。cが調整されてc'になれば、需要曲線の傾きが変化して、均衡はE2となる。ここで、もっと貯蓄、つまり投資した方が得なので自発的にcが減り、自動的にE2が実現されるであろうと言うのが、市場原理主義者の発想になる。

3. 赤字財政で解決する場合

政府支出Gを考えて、D = cD + I + G = (I+G)/(1-c)、S = F(I+G)としてみよう。赤点線の需要曲線Dが右にシフトして、均衡はE2となる。ただし税金tがゼロであるため、永久には維持はできない。増税なしで国土強靭化計画の実行が、このパターンと言うことになる。

4. 増税と歳出増で解決する場合

G = tに注意すると、D = c(Y - t) + I + G = I/(1-c) + Gとなる。需要曲線は屈折する事になるので、E2を均衡点とする事ができる。大きな政府になるが、政府財政は健全であるため維持は可能だ。復興増税と震災復旧工事の組み合わせが、このパターンと言うことになる。

5. まとめ

初級マクロ経済学で習うようなIS-LMやAD-ASよりもシンプルなモデルで考えたが、需給ギャップがあるのか無いのか、需給ギャップが自然に調整されるのか、財政支出と同時に増税を行うのかで状況がだいぶ変化する事が分かる。

流動性の罠にあるのは確かなので、需給ギャップがある可能性は高いであろう。ゼロ金利とデフレは長く続いているので、自然に調整される気配も無さそうだ。累積債務が大きいので、赤字財政の拡大は無理であろうから、増税と歳出増が有効そうにも思える。

ただし、90年代後半の公共投資では景気刺激効果が薄かったわけで、これでデフレから脱出だと期待するのは早計だ。少なくとも公共投資の内容や手法は良く検討する必要がある。どちらかと言うと金融政策を工夫した方が、費用対効果が高いかも知れない(関連記事:クルッグマン論文を使って、池田信夫を応援する)。

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