2012年12月27日木曜日

お金が無限に循環しないことを説明したい

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教科書的なケインズ経済学において、最も世間で有名な単語が乗数効果だと思われる。しかし、お金は無限に回っていくので無くならないから、消費を幾らしても国全体の富は減らないと言う誤解が発生している。この誤解をしたまま経済政策を考えると、無限に財政赤字を増やせるように思えてくるようだ。もちろん、そんな事は無い。

1. 乗数の復習

国民総生産Y、消費C、投資Iを考えよう。国民総生産は消費と投資に分けて使われるから、Y = C + Iとなる。

消費は所得の一定比率、つまり0から1の間の値をとる消費性向cで定まるとすると、C=cYを代入して、Y = cY + Iとできる。この式を整理すると、Y = I/(1-c)となる。この1/(1-c)を乗数と呼ぶ。

2. 乗数の意味

お金を消費しても国全体の富は減らないと誤解されているのは、この乗数の意味からだと思う。乗数が、お金の回転を表しているのは確かだ。

誰かの投資でお金を1円得た甲さんがc1円、乙さんがc2円、丙さんがc3円・・・と消費していったときの消費の合計値(無限等比級数の和)は1/(1-c)、つまり乗数となる。

3. 無限投資可能なパラダイス

上述の簡単なモデルは、実は投資Iを無限に増やせば、国民総生産Yが無限に増えるパラダイスにはなっている。公共投資でも何でも無限に投資拡大していけば、不景気とは無縁だ。

4. 規模に関して収穫逓減する生産関数

明らかに詐欺な話なのだが、どこが詐欺かを説明しよう。投資を増やせば増やすほど、生産量が増えるわけが無い。土地や人手が不足して、生産効率が落ちていく。だから国民総生産Yは、生産関数F(I)によっても定まることになり、Y = F(I)となる*1

これで消費を最大化する投資量Iが一意に定まる。Y = C + Iを変形してC = Y - Iにし、Y = F(I)を代入して、C = F(I) - Iにする。Iで一階微分してゼロになる事がCの最大化の条件だ。F'(I)-1=0、つまりF'(I*)=1となるI*が最適な投資量になる。1円分の追加投資で、1円分以上の追加生産が得られない場合は、もう投資を増やさないと言う意味だ。限界を超えると、消費が減る。

なお、動学ではないが、効用関数U(C)=C、生産関数Y=F(I)、予算制約式Y=C+Iがある一般均衡モデルとなっている。

5. 通貨は消費して消えない?

確かに通貨は消費して消えないが、最初は誰も通貨を持っていないことに注意して欲しい。通貨を使う場合は、財を担保に銀行から借りてくるしかない。つまり消費や投資を行った時点で、銀行に通貨は返しているわけだ。だから通貨は消えないのだが、誰の手元にも残らない。

6. ケインズ経済学が駄目と言うわけではない

これでケインズが駄目と言うわけでもない。必ず人々が投資I=I*を達成できるわけでもないからだ。投資も消費もしない余剰(≒デフレギャップ)があるのであれば、政府投資で状況を改善できるかも知れない。例えば流動性の罠にあると、投資量が十分に増えない。独占企業がいても、過少投資になるであろう。しかし投資Iを増やしても、限界がある。お金が無限に回っていくわけでは無いのは確かだ。

追記(2012/12/28 11:50):消費性向cが何故か一定で、かつ大きすぎる場合、左図のように消費最大化点よりも投資が不足した均衡点になる。この場合は、政府投資の拡大で生産量と消費を拡大する事ができる。

*1F'(I)>0でF''(I)<0となる。

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