2012年10月27日土曜日

アップルとサムソンの特許訴訟の行方

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アップルとサムソンの特許訴訟も、色々と判決が出てきた。特許訴訟だけに、最後にどうなるかは分からないが、それでもクリアになりつつある事が三つある。(1)サムソンの製品はアップルの特許を侵害している。(2)アップルの特許は新規性が無い可能性が高まっている。(3)アップルの製品はサムソンの特許を侵害していない。(2)が決定的なので、全般的に見るとサムソン有利なように思える。

1. 8月25日の米国の評決は第一ラウンドに過ぎない

8月25日の米国の評決で、ソフトウェア特許がどういうモノか想像も付かない記者が「アップル、サムスンに完勝」と見出しを打っているが、特許裁判では上告後に判決が覆される事は良くある。特に米国では陪審員が決定するので、心情的に米国企業が有利になる。内容を見るとアップルの全面勝利になっているが(WSJ)、確定事項では無い。

2. ITCとUSPTOの仮決定は影響力が比較的強い

だから参考になりそうなのはプロの集団である、米国際貿易委員会(ITC)と米特許商標庁(USPTO)の判断であろう。ITCはサムソンがアップルの意匠権と特許を侵害していると認定し、USPTOはアップルの特許に新規性が欠如しているか自明であると判断した。どちらも最終決定では無いが、比較的重い。

3. 話題のバウンスバック/ピンチズーム/タップ拡大も公知

実にアップルの特許は20件も無効(仮)になったのだが、その中でも注目されるのは、(a)バウンスバック(特許381)、(b)ピンチ動作(特許915)、(c)タップして文書を拡大(特許163)の三つだと思われる。The Vergeが伝える情報などからは、2001年にMitsubishi Electric Research Labsで開発されたDiamondTouchが(a)バウンスバックと(b)ピンチ動作を、2004年にiPAQで実現されていたLaunchTileが(c)タップして文書を拡大を実現していたようだ。

上の動画の1分50秒から2分50秒ぐらいで、DiamondTouchの(b)ピンチ動作と(a)バウンスバックの動作を見ることができる。バウンスバックの方は拡大が十分でないと元に戻る挙動で、スクロール端での挙動とは異なるが、アップル社の特許の請求項目に該当していれば公知例になる。

上の動画の1分7秒から、明らかに(c)タップしてドキュメントを拡大している。なおThe Vergeの記事では、バウンスバックもしているように読めるのだが、動画からは該当部分は無いように思えた。

4. 米国以外では、アップルの特許は弱い

日本ではサムソンがアップルの同期技術を侵害していないと判決が出ており、英国では『iPadほど「クールではない」』とサムソンが勝利している。英国では他にもスライドアンロックやピンチズームを含めた特許が無効と認定される判決が出ているオランダでも、サムソンのピンチズームの特許侵害は認められなかったドイツでもアップルはスライドアンロックで他社を訴えるのには失敗しているようだ。

5. サムソンの特許も弱い

サムソンもアップルを特許侵害で訴えているのだが、8月25日の米国だけでは無く、オランダの法廷もアップルがサムソンの特許を侵害したとは認めていない。主な部分は通信技術に関する特許だと思われるが、半導体製造メーカーがサムソンからライセンスを受けて製造しているので、侵害に当たらないと言う判決だ。論理構成は明確で、この点はアップル優位は揺らがないように思える。

6. 特許訴訟戦争はサムソンの実質的勝利に終わる

推測に過ぎないが、このままアップルの特許が無効だと認定される流れが続けば、特許訴訟戦争はサムソンの実質的勝利に終わる。サムソンとしては機能を落とさず、賠償金を払わず、スマートフォンを販売し続ける事が勝利条件だからだ。

米国ではサムソンが負けるように思うかも知れないが、米国でアップルがHTCを20件の特許侵害で訴えたケースでは、重要ではない技術1件のみの侵害が認められ、実質HTCの勝利となっている(ITmedia)。アップルとしても、どこかで和解に持ち込んで、訴訟費用を削減する方が望ましいであろう。伝記によるとAndroidを「水爆を使ってでも抹殺する」と息巻いていた創業者のスティーブ・ジョブズはもういない。

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