2012年8月11日土曜日

優良顧客の消失で、売春婦の顧客獲得行動は変化するか?

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エミコヤマ氏との、公権力の介入で強制的に売春婦の顧客が取り締まりを受ける需要抑制アプローチで、売春婦がサービス供給量を増やすかと言う議論に関して、「売春需要が下がると売春供給が増える事はあるか?」の別解を整理したい。

まず大前提になるが、需要抑制アプローチは、避妊や感染症対策に非協力的で、暴力を振るったりする不良顧客の比率を多くするはずだ。失う物が多い人ほどリスク回避的になるため、売春婦の優良顧客は警察の取り締まりに敏感であろう。

不良顧客率の増加は、売春婦の生活を悪化させるだけでは無く、売春婦の営業活動を変化させる可能性がある。つまり、売春婦が外見や過去の経験から客を選んでいる場合に、不良顧客の増加が顧客選別する余裕を無くす可能性がある。

t時間をかけて顧客を見つけると、確率αで優良顧客、確率1-αを不良顧客を引くとしよう。単純化のために、顧客行動による不利益を金銭換算して、PgとPbの収益があるとする。Pg>Pb。サービス時間は1時間必要とする。さらに顧客を獲得すると、確実に優良顧客を引けるとする。

優良顧客を獲得するのに平均的に必要な試行回数は、ベルヌーイ試行になるので幾何分布の平均試行回数になる。つまり、平均1/α回の顧客獲得行動で優良顧客を捕まえる事ができ、必要な時間はt・1/αとなる。これらの条件を整理してみよう。

顧客を選別する場合(Searching and Service)
売春婦の期待利益:πss = Pg/(1 + t/α)
時間当たりの期待サービス回数:1/(1 + t/α)
顧客を選別しない場合(Just Service)
売春婦の期待利益:πjs = {αPg + (1-α)Pb}/(1 + t)
時間当たりの期待サービス回数:1/(1 + t)

計算しなくても、α→0で極限をとるとπss→0でπjs→Pb/(1+t)だから結果が見えているのだが、グラフを描いた方が傾向が良くわかると思う。

黒の実線が顧客を選別する場合(Searching and Service)の収入で、黒の破線が顧客を選別しない場合(Just Service)の収入だ。赤の破線の左右で、どちらが得かが変化するので、営業行動も変化する。

図中のポイント(h)*1は優良顧客が多いので顧客を選別する方が得な状態で、(l)は少ない優良顧客を探すよりは不良顧客の相手をなるべくした方が得になる点だ。

このときの時間当たりの期待サービス回数は以下のようになる。

(l)よりも(h)の方が少なくなるわけだ。需要抑制アプローチで、優良顧客の比率が急激に低下すると、売春婦の営業行動が変化する事で、実際に行われる売春回数は多くなる。売春婦の絶対数を増やすわけではないが、治安面などで問題を引き起こすかも知れない。

この分析では、サーチ行動による需給の変化を考慮していない。サーチ行動は売春婦や顧客にコストを与えているので、需給に影響を与えうる*2。しかし、前エントリーの議論からは供給量減少しないであろうし、需要が減少する方向で影響を受けるので、エミコヤマ氏の仮説を否定する事にはならない。

問題があるとすれば現実に顧客を選り好みしているかで、そちらをアンケート調査か何かで確認をしておく方が議論が深まる。顧客によって不利益を受ける事があるか、顧客によって価格を変更するか、顧客を拒否する事もあるか、声をかけるときに容姿を気にするかとか、以前にとった客を優先するかとか、売春婦同士で顧客情報を交換しているかとか。自明なものも含まれると思うが、年齢や容姿などの附帯情報があると、色々と分かる事があると思う。

*1需要曲線が高く価格が高いのでhをノーテーションとしている。ゆえに逆のケースをlにした。

*2厳密に議論するのであれば、上述のサーチ行動を組み込んで、顧客の効用関数から需要曲線を、売春婦の効用関数と予算制約線を導入し、価格を含めて解を求める必要があるであろう。

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