2012年7月15日日曜日

名目GDPと連動性が高い民間給与?

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作文をしていて用語の定義や用法がおかしくなるのは良くある事だが、イデオロギー的な情熱が強く出てしまうと、奇妙な文になっている事に気付かない事がある。

ググって分かる日銀の体質」と言うブログのエントリーの冒頭部分が、まさにそういう感じになっている。エントリー全体としては日銀が名目GDP成長率に関心を払っていないと批判していているが、冒頭の実質より名目値が重要な理由の説明が奇妙なので、全体がおかしくなっている。

実質GDPではなんとか成長を持続している日本ですが、名目GDPではデフレによる停滞ないし減少が続いており、名目GDPと連動性が高い民間給与や税収にも大きな悪影響が出ています

民間給与が実質GDPよりも名目GDPと連動性が高いと言うのが、意味不明すぎる*1。GDPは総付加価値で、資本と労働に分配でき、労働分配分を賃金と考える事ができるが、名目でも実質でも労働分配率は同じになる。同じようにGDPデフレーターで調整する事になるからだ。

なお、労働分配率を見ると高度成長期やバブルの頃よりは増加しているので、不況で影響を受けるのは、労働者よりも資本家のようだ(労働分配率の推移)。サブプライム・ローン問題後も、労働分配率は急上昇している。

デフレの弊害を主張するのは理解できるのだが、物価・賃金の下方硬直性、公的制度の硬直性、名目金利の非負制約などから主張するべきで、「デフレ状態では実質GDP以上に名目GDPの動向が重要」と言い出すと根拠不明な妄想になる*2。デフレが実質GDPに影響を与えうるから問題になるわけで、デフレだから名目GDPが重要と言うわけではない。

イデオロギー的に無理に日銀批判をしようとするから変な作文になるわけだが、これは共産党が社会問題の元凶を全て資本家のせいだと言っているのに近い。一部の経済評論家の論調に同調しているのだと思うけれども、彼らの理論的、計量的バックグラウンドは脆弱だ。

追記(2012/07/15 11:30):問題エントリーが名目/実質GDPとサラリーマン給与の相関係数を追記してきた。しかし、全くなっていないヽ(`Д´)ノ

データの出所などが明確で無いのだが、どうもサラリーマン給与が名目値だ。名目GDPも名目給与もインフレ率との正の相関があるため、この二つがプラスの相関になるのは当然で、逆に実質GDPはインフレ率を引いたものだから、名目給与と負の相関になるのも当然だ。

もちろん実質GDPと実質給与は、労働人口と労働分配率が同じであれば正に比例し、労働人口と労働分配率はそうは急激に変化しないので、大抵は正の相関を持つ事になるであろう。これはインフレ率を足した名目GDPと名目給与の関係にも言える。

*1所得税・法人税・相続税などは名目値に応じて税率が上がるため、税収と名目GDPと連動性が高いと言う主張は理解できる。

*2消費するためにお金があるわけで、消費財の量に近い数値で経済状態を評価するのが当然だ。ゆえに名目値ではなく、実質値が重視される。

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