2012年6月4日月曜日

ケインズ理論は新古典派の特殊な場合?

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経済評論家の池田信夫氏が、リカードの中立命題と時間選好率を持ち出して、「ケインズ理論は新古典派の特殊な場合」だと主張している(BLOGOS)。どこから突っ込めば良いものか。数理モデルを設定した上でパラメーターを変化させて、ケインズ理論のケースと新古典派のケースを再現してくれたら良いのだが、情緒的な作文で理解不能になっている。

問題があるであろう点は、以下の4点だ。

  1. ケインズ理論は需要決定型で、新古典派モデルは供給決定型である事を忘却している。ケインズ理論の消費者は何故か消費を最大化しないが、新古典派モデルでは他の制約が無ければ消費を最大化しようとする。金利の非負制約や価格の硬直性もケインズ理論の特徴だが、教科書的な新古典派経済理論では考察されない。
  2. 新古典派経済理論では利子率はモデル内、恐らくここでは時間選好率で決定される事が抜けている。新古典派のどのモデルに言及しているのかが分からないが、ケインズ理論は利子率と時間選好率が大きく乖離していると主張する時点で、ケインズ理論は新古典派経済理論と大きく異なると主張しているようなものだ。もちろん、ケインズ理論(IS-LM)に時間選好率などない。
  3. リカード的家計が多く、政府債務の増加で消費が低迷すれば、当然、投資は維持されている事になる。新古典派モデルでは投資量が経済成長を決定するので、参照されている政府債務の増加が経済成長率を引き下げるという実証研究は、それまでの議論をサポートするわけではない。
  4. 高齢化が進んだら非リカード的家計が増えるように書いている一方で、財政赤字が増えて現役世代が消費を減らしているので消費が低迷していると主張している。

財政赤字が問題かと言えば、ドーマー条件を満たしていないと言う意味で深刻な問題だ。つまりこのまま行けば、そのうち破綻する。財政赤字が経済成長率を抑制する事もあるのかも知れない。しかし、ケインズ理論は新古典派の特殊な場合と言うのは意味不明すぎる。

こういう政治目的で、経済理論を意味不明に解釈しだすのは、経済モデルを理解していないからだと思われる。教科書的なものでも、新古典派経済理論を勉強しておけば、こういう間違いを犯しづらいはずだ。以前にリアル・ビジネス・サイクル理論世代重複モデルをこっそり紹介してみたが、興味を持った人は参照されたい。もちろん、ケインズ理論の特徴を把握するには、IS-LMモデルも理解しておく必要がある。

1 コメント:

Unknown さんのコメント...

池田氏の論調全般に言えることだが、基礎的な素養が欠落しており、実地検証に、あるいは市場観察に欠けたトンデモ主張が多く、辟易する。
聞きかじりを、すぐに自分の意見や考察として論壇で発表するのではなく、真摯に沈思黙考されることを期待したい。
まずは、基礎を横着しないで氏が学ばれんことを、切に願う。

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