2012年5月23日水曜日

とある再生可能エネルギー電気の調達価格決定方法に関連した議論

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やまもといちろう氏andalusia氏が、固定価格買い取り制度(FIT)に関するディスカッションを行っている。

電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」と「平成24年度調達価格及び調達期間に関する意見」を見れば全て疑問は書いてあると思いつつ、議論が噛みあっていないように見えるので、幾つか横槍を入れたい。

1. 買い取り価格の相場

太陽光発電の42円/kWhが問題視されているわけだが、再生可能エネルギーに熱心であったドイツ政府も買取価格をEUR0.2443(約27円)/kWhに下げていて、2013年からは全量買取も廃止される。欧州レートの1.5倍となっている。単純に見れば高いし、日本の物価高を考慮すると妥当かも知れない。

火力や原子力に比べても当然高い。コストが高いから高いFITが必要なわけではあるが、燃料リサイクルコスト込みの原発のコストは6.5円/kWh、事故処理費用を入れても7.7円/kWh(asahi.com)。費用効率性悪し。

2. 買い取り価格の決定方法

批判のある電力会社のコスト構造と同じように「買取価格=コスト+内部利益」になるようにしている。3年間は内部利益率(IRR)を高めにし、それ以降は低めにするそうだ。また、事業失敗確率の高い地熱発電所は内部利益が高めに設定されている。特別措置法の文面に従って調達委員会が決定したが、接続費用、地代、法人税も加えられている。

3. 買い取り価格の改訂間隔

特別措置法の文面では、価格改定は年度ごとに1回になっている。調達委員会は半年に一回、各事業者の実際の経費を調査するように推奨している。また、「物価その他の経済事情に著しい変動が生じ、又は生ずるおそれがある場合」は期中であっても改訂される。

なお、ドイツはFIT縮小による駆け込み需要防止で月1回改訂に変更になった。

4. 買い取り量の上限

FITと同種の制度でオークションで買い取り枠を競り落とす国もある。フランスやデンマークで行われている競争入札制度だ(国内外における再生可能エネルギー政策の現状)。事業者が参入する妥当な価格を自動的に得られるメリットがある。しかし、日本政府はFITを採用している。「国民負担を調達サイドの話に置き換えるのは、普通に危険」であっても、既に終わった議論になっている。

5. 買い取り価格の基準時点

使いもしないADSLのコロケーションを大量占拠したソフトバンク社を思い起こすと、計画承認時点からか、送電開始時点からかは重要なポイントになる。特別措置法の文面では明確ではないが、「調達期間は、当該再生可能エネルギー発電設備による再生可能エネルギー電気の供給の開始の時から、その供給の開始後最初に行われる再生可能エネルギー発電設備の重要な部分の更新の時までの標準的な期間を勘案して定める」とあるので、運用開始後が基準になるであろう。パブリック・コメントで明示するように求めても良いかも知れない。

6. 太陽光パネルの調達コスト

リーマン・ショック後に暴落しており、中国の低価格戦略で米社の破綻相次いでいる(AFPBB)。欧州市場での補助金が低下しているので、当面は持ち直す気配は見られない。また、日本メーカーの世界シェアはどんどん低下している。ダンピング認定が政治的に運用される側面を考えると、単に安いか高いかの差でしか無い可能性は高い。

メガソーラーの発電コストに占める太陽光パネルの調達コストは、地代・人件費を除けば半分程度を占めると思われる(長谷川・新井本・大和田(2012))。パネル価格の下落は買い取り価格において重要な要素だ。

なお、草抜きとかしないと雑草に覆われそうな気がしなくも無いが、運転要員費はほとんどかからない事になっている。

7. 自然エネルギー協議会のロビー活動

菅氏以降へのロビー活動があったかは不明。調達価格等算定委員会の議事録を見ていると、参考人として呼ばれた孫正義氏が「40円の20年で試算したときに、二百数十ヶ所のうちの二百何ヶ所は、少なくとも造成コストうんぬんを数えたときに、われわれとしてはかなりこれは難しい」と発言している。安かったら逃げるぞと言っているようにしか思えない。

8. FITと言う制度の是非 - 技術進歩への影響

やまもといちろう氏が感じている疑問はFIT制度自体の是非で、andalusia氏が答えているのはFIT制度の理念なので、議論が噛みあっていないように感じる。さらに議論が混乱するように、一番大事なポイントを指摘したい。FITで技術革新がおきるケースと、おきないケースがある点だ。

ドイツで10年以上FITをやってみて、太陽光発電のコスト構造は大きく変わらず、風力発電のコスト構造は大きく下がった。これは、平均タービン出力が大きく上がったから。風力タービンを欧州から輸入する日本も便益を受けていて、2000年に平均555kWから2009年に平均1,299kWに大型化している(関連記事:陸上風力発電の限界)。シリコン価格の影響が大きい現状の太陽光パネルには、こういう現象が無かった。

良くコンピューターが引き合いに出されるが、プレーナ型トランジスタが発明され高集積が可能になっていて、かつ情報処理にはエネルギー量がどうでも良いと言う条件があった背景が忘れ去られている。FITの効果は大きく見込めない。まだまだ基礎研究に予算を費やすフェーズに思える。

ところで数ある再生可能エネルギーの中で、コストや賦存量で最も期待が多きいのは浮体式洋上風力発電だと考えられる。陸上よりも稼働率の高い洋上で発電できる上に、船舶技術を応用できるからで、2020年までに$0.08 ~ 0.1/kWh(約6.4~8円/kWh)になる超強気の試算もある(関連記事:三陸沖で浮体式洋上風力発電の実証実験を)。再生可能エネルギーの本格利用には蓄電技術の進歩も必要だ(関連記事:再生可能エネルギーのための蓄電技術)。FITがこれらの技術開発を促進するかは、欧州の経験を踏まえると疑問が残る。

1 コメント:

suppom さんのコメント...

おっしゃっていることはごもっともだと感じますが、最後の洋上風力のコメントには疑問です。
洋上であるがために発生する設置費及びメンテナンスコストの増大あるいは設置による漁業への影響や設置エリアにおける風況変化による影響などまだまだ解決しなければならない問題が山積していると感じています。
また大型風力は装置の停止を伴う修理などの際に欠落する電力が大きいと感じており、個人的には小型風力を数多く設置する陸上案が現状では最適解と感じています。

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