2012年4月21日土曜日

インフレ目標政策に関する池田信夫の4つの誤信

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経済評論家の池田信夫氏が、大阪市長の橋下徹氏に向けてインフレ・ターゲティングについて説明を行っているが、一般の経済学の文脈とは大きく外れるものとなっている。どこがおかしいかをリストした上で、池田信夫氏が根本的に理解していないことを考察してみた。

1. 池田信夫氏のブログにある勘違い

根本的にわかっていなさそうな点は後述するとして、短いブログの文章中にも奇妙な点が散りばめられている。

1.1. 1%の金利上昇では、銀行はつぶれない
池田信夫氏は以下のように言っているが、日銀の見解とは大きく異なる。
長期金利が1%ポイント上がると邦銀は6.4兆円の評価損をこうむるが、これは「銀行が損をする」というレベルではない。2010年度の邦銀の業務純益は3.2兆円だから、その2倍が吹っ飛び、自己資本が大きく浸食される
日本銀行の金融システムレポート(2012年4月)を引用しよう。「国内金利が一律に1%上昇するケースなど、一定の規模のストレスが生じたとしても、銀行の自己資本基盤が全体として大きく損なわれる事態は回避されると試算される」 そうだ。
1.2. インフレ目標とリフレーション政策の見分けがついてない
池田信夫氏は以下のように言っているが、これは一般のインフレ目標政策や量的緩和とは異なる。
日銀が目標を設定して通貨(マネタリーベース)をどんどん供給したらインフレになる、と思うだろう
著名なマクロ経済学者の伊藤隆敏氏は「市場にきちっとした物価目標を提示することで、インフレ期待の安定と、金融市場の安定性を確保する」と、インフレターゲティングを説明している。元財務官僚の高橋洋一氏が「日本銀行に何をやらせるか、もしくはうまくできなかったときには日本銀行に責任を取らせる仕組みがインフレターゲティング」と説明しているが、一般的な文脈とは大きく異なる(関連記事:高橋洋一のインタゲはちょっと違う?)。
1.3. 日銀にとって長期国債はリスク資産ではない
池田信夫氏は以下のように言っているが、中央銀行の経営を理解できていないようだ。
しかし短期国債とは違って長期国債はリスク資産だから、もし暴落すると日銀が債務超過になる
日銀は調達金利を払わないので、名目金利が正であるならば損はしない。長期国債もマイナス金利ではないので、金利が上昇して評価損をしてもC/Fで潰れる事はない。時価会計でB/Sは毀損するが、満期まで保有すれば問題ない。銀行にはBIS規制があるが、日銀には無いので経営に影響は無いのだ。
日銀B/Sの毀損が問題になるのはインフレーションをコントロールできなくなる可能性があるからで、どうも池田信夫氏は理屈を良く理解していないようだ(関連記事:日銀がリフレーション政策を嫌がる理由)。
1.4. 緩やかなインフレが存在しない事になっている
1%~3%程度の“緩やかなインフレ”も存在するわけだが、池田信夫氏の世界ではデフレかハイパーインフレーションしか無いらしい。
金子洋一氏が日銀総裁になって「インフレが起こるまで数百兆円の国債を引き受ける」と宣言すれば、通貨の信認が毀損されてインフレが起こるだろう。これは途上国でよくある財政破綻によるハイパーインフレである。

2. 池田信夫氏が根本的に理解していないこと

こういう勘違いを起こしている池田信夫氏が、分かっていなさそうな点は二つある。緩やかなインフレの利点と、量的緩和とインフレ期待の関係だ。

  1. ハイパーインフレーションは経済に致命的な混乱をもたらすが、緩やかなインフレは、(1)名目金利の非負制約による実質金利の高止まりから来る過少投資を緩和し、(2)価格の下方硬直性から来る非効率な資源配分を緩和する。
  2. 量的緩和は投資の拡大もインフレも引き起こさなかったが、これは期待インフレ率が低下している事が理由に考えられている。だから、インフレターゲティングで期待インフレ率を引き上げようと言う動きがあるわけだ。むしろ量的緩和の失敗は、インフレターゲティングの必要性を示していると考えた方が良い。

池田信夫氏はリフレーション政策推進者が嫌いなので、彼らが唱えるデフレの弊害やインフレターゲティングの効用も全て否定しようと躍起になっているようだが、全てをひとくくりに否定する必要は無い。もしかしたら池田信夫氏が根本的に理解していないことは、主張者と主張の内容が独立していると言うことなのかも知れない。

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