2012年3月24日土曜日

「人口減少デフレ論」を考察する

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人口減少とデフレは関係が無いと言う高橋洋一氏の主張を批判しようと思ったら、「高橋洋一氏の「人口減少デフレ論」批判を批判してみる」と言うエントリーで先に検証が行われていた。紹介すると同時に、少し補足したい。

日本の生産年齢人口の減少程度を確認した上で大雑把な人口減少がデフレにつながるメカニズムを解説する。日本銀行の金融政策を擁護する気は無いが、何でも批判すれば良いと言う訳でもない。

1. 生産年齢人口の減少は発生し、拡大する

まずは大前提を確認しよう。生産年齢人口の減少は発生し、拡大する事が分かる。この統計・予測は、官公庁のデータの中でも信頼性が高いものとされている。

ドイツとか韓国も人口減少しているのでは無いかと批判があるのだが、韓国はここ10年間は年率0.569%増で、ドイツは-0.278%で、日本は-0.569%だから、日本が一番負の影響を受けているのは間違いが無い。

2000~2010年の年平均労働人口増加率
国名 略称 増加率(%)
日本 JPN -0.569
アメリカ USA 1.104
カナダ CAN 1.182
イギリス GBR 0.634
ドイツ DEU -0.278
フランス FRA 0.520
イタリア ITA 0.226
スウェーデン SWE 0.606
ロシア RUS -0.060
韓国 KOR 0.569

2. 人口減少は、経済成長率を低下させる

教科書的な話だが、マクロの生産関数と言うのがある。難しい話ではなくて、国民所得 = F(労働投入量, 資本投入量)という関係式だ。労働/資本投入量の増加により、国民所得は増える事も分かっている。逆に言えば、労働年齢人口が減少しつつある日本経済は、成長率が低くなる。

3. 人口減少は、金利を低下させる

低成長率だと金利は低下する。労働に対して資本が過剰になるので、資本の限界生産性が低下する。資本レンタル費用である金利が低下するのは否めない。技術革新が起きて資本の限界生産性が向上すれば話は別だが、そう簡単には世の中は変わらない。

4. 人口減少は、デフレを引き起こす?

低成長・低金利までは簡単に説明がつく。(2)と(3)は手堅い話だ。ここで少し論を飛躍させ、インフレ率と成長率が相関している事を考えると、デフレに陥りやすい経済になる事が分かる。

相関係数は0.339と強くは無いが、P値は切片項が0.06748、CPIが0.00011とどちらも統計的有意性がある。需要が伸び無いので、物価が低迷すると解釈して良いとおもう。

デフレに陥りやすいのと、デフレになるのは大きな違いがあるが、人口減少デフレ論にもある程度の説得力がある。

追記(2012/03/26 15:50):成長率とデフレの理論的な関係は曖昧なのだが、経済が縮小していると生産設備(=資本)が余るわけで、資本財価格が低下しデフレを招くと考えても良いと思う。会社更生法(減資や債権整理)で復活した航空会社が価格勝負に打って出るのを想像して欲しい。

5. 生産年齢人口の変化とインフレ率に相関が無い! ─ 当たり前

生産年齢人口の変化とインフレ率に相関が無いと主張している人がいるが、労働投入量以外にも、資本投入量や全要素生産性が生産量を決定する。問題は人口減少と言うよりは、成長率の低下と言う事になる。

追記(2012/03/26 19:30):相関が無くても当たり前と書いたが、労働力成長率とインフレ率の関係は確認できた(関連記事:労働力成長率とインフレ率)。

6. 無税国家の実現? ─ スタグフレーションになるだけ

人口減少でデフレになるなら無尽蔵に国債で資金調達が可能だから、無税国家が実現できると言う批判があった。

発想としては面白いのだが、人口減少で国民所得が伸びないのでデフレに陥りやすいと言うだけで、別に人口減少はデフレを約束していない。ここで財政赤字が拡大すれば、生産性の伸びが無い事から、インフレだが実質成長が無いスタグフレーションに陥る事になるだろう。

人口減少が恒等的にデフレを説明せず、デフレに陥りやすい経済をもたらすだけなのは、注意が必要だ。

追記(2012/03/25 14:50):定常的な低成長とインフレではスタグフレーションとは言えないと指摘があったが、インフレ加速が実質経済成長を促さないと言う意味でスタグフレーションと呼んでいる。

7. 外生変数を探せ! ─ 何と通貨は外生変数ではない!

デフレ → 低成長率の関係は否定できない。物価調整速度が低下するからだ。しかし、低成長率 → デフレの関係も否定できないわけで、堂々巡りの議論が展開される。

ここで労働年齢人口の減少と言う外生変数を考慮にいれると、低成長率 → デフレの関係が説得力を持つわけだ。もちろん構造改革などによる技術革新も、外生的な要因になる。全要素生産性の伸びが重要と言われるわけだ。

デフレは貨幣的現象では無いのかと思うだろうが、森澤(2006)はVECMでリーマンショック前までの日本でCPIと通貨供給量の関係を分析しているが、CPIと準通貨・預金との間に強い因果関係は観察できておらず、貨幣的現象では無い可能性を示唆している。

8. デフレのままでいいの? ─ それは困る

名目金利は非負なので、デフレだと企業の債務負担が大きくなる。厚生年金の運用利回りは5.5%固定で、企業は補填に苦しんでいる。デフレだと賃金の下方硬直性から、経営負担は大きくなる。世の中インフレを前提に作られている所があり、やはりデフレは困るわけだ。

そういう意味でデフレを放置しているのは問題で、政府や中央銀行は何か手を打たないといけない。量的緩和で簡単に解決するわけではないが、何か打開策は必要だ。ターゲット・レートを引き上げて、長期国債を積極的に買うのは一つの手だと思うが、今の所は消極的な姿勢が目立っている。

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1 コメント:

Chiznops さんのコメント...

生産年齢人口のグラフは、いつ見ても案惨たる気持ちになります。2010年から2020年まで、ぱっと見た感じ1000万人ほど減るのですね。しかもこのトレンドが、我々現役世代が死んだ後まで続いていく‥。日本の全ての問題がここに示されていると感じます。せめて減った分だけでも移民を迎えられたら良いのですが、日本では国家が3回破綻しても無理でしょうね。

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