2012年3月16日金曜日

日本の労働生産性が妙に低い単純な理由

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労働生産性の国際比較が話題になっていて、日本がOECD加盟34カ国中第20位である事で、日本の低落ぶりが話題になっている。

悲観的なコメントや、ルクセンブルクが1位な事などに違和感を呈するコメントが色々と出ていて興味深い。各々が社会の嫌いな風習や団体が労働生産性を低下させていると主張している(SIerブログ)。

熱い議論で愉しいのだが、残念ながら日本の労働生産性が低いのは、統計上の手続きの結果としか言いようが無い。

1. 購買力平価換算USドルの罠

上位から眺めなおしてみよう。ルクセンブルグ、ノルウェーが高いと。米国もやはり高い。

日本は20位で米国の2/3の労働生産性しかない。駄目な国、日本。

しかし、「単位:購買力平価換算USドル」の文字がきらめく。そう、これはPPPで調整されているのだよ。

PPPで調整しないと、ずっと変わった数字になる。

2. 名目レートで労働生産性を比較してみる

国ごとに物価水準は違うので、PPPで調整するのは一見、妥当に思える。しかし、そもそも貿易財はそもそも国際価格で統一されているだろうし、非貿易財は国ごとに品質が異なるものだ。

国外に出れば分かるが、日本と同じクオリティーの生活を目指すと、日本以上にお金がかかる事もしばしばある。PPPなど信頼が置けない。だから、名目為替レートで比較する方が妥当だ。幾つかの国の名目労働生産性を逆算してみよう。

労働生産性と為替レート
国名 為替 名目レート PPPレート 労働生産性
(名目)
労働生産性
(PPP)
日本 $/円 87.8 111.5 87,310 68,764
ドイツ €/$ 0.755 0.810 73,274 78,585
英国 £/$ 0.647 0.659 75,813 77,209
韓国 $/ウォン 1156.1 824.6 42,431 59,488
出所)"OECD Statistics - PPPs and exchange rates"と「労働生産性の国際比較」から編集

米国は基準国なので、$97,047で変わらない。日本は米国の90%ぐらいの労働生産性しかないが、ドイツや英国よりは10~20%勝っている事が分かる。また、韓国よりは2倍ぐらい労働生産性がある。表からは外したが、ルクセンブルグは$90,414と日本とほぼ同じであった。

3. 名目為替が動けば労働生産性は動くのか?

名目為替が動けば労働生産性が変化すると言うのは、直感にあわない。円高になれば労働生産性が上がる事になるからだ。だから、購買力平価で調整を行うのであろう。しかし、為替レートが動けば輸出企業の収益性も変化するし、円高になれば労働生産性が下がる効果もある。バラッサ・サミュエルソン効果を考えれば、貿易部門だけではなく、経済全体に影響が及ぶはずだ。だから、PPPによる調整は過剰である可能性がある。

4. 労働生産性という指標

最後に、労働生産性について復習しておこう。付加価値(=粗利益)を労働者人数×労働時間で割ったものとなる。企業単位ではなく、国家単位になると付加価値の総和としてGDPを労働力人口×平均労働時間で割ることになる。

粗利益は景気が良いと単価や生産量が上昇して膨らむ傾向がある。機械化が進んで資本装備率が増したり、創意工夫で材料費を抑制したり製品単価を上げたりしなくても、バブル経済では労働生産性が上がっていく傾向がある。

5 コメント:

泰成 さんのコメント...

失礼ですが、労働生産性を名目レートで比較する事は、無理があるような気がします。
 
>そもそも貿易財はそもそも国際価格で統一されているだろうし、非貿易財は国ごとに品質が異なるものだ

 現実の世界では、関税や輸送費などで価格差は存在します。たとえば、ハーゲンダッツは、海外では格安の商品だが、日本では高級品です。あるいは、海外でワインは五百円以下が主流ですが、日本でワインは主流ではないですね。

uncorrelated さんのコメント...

>>泰成 さん
> ハーゲンダッツは、海外では格安の商品だが、日本では高級品です。

同じメーカーの同じブランドの商品で、日本と国外で品が違う事もありますね。

> あるいは、海外でワインは五百円以下が主流ですが、日本でワインは主流ではないですね。

これこそ海外で流通しているガロン単位のペットボトル入りワインと、日本で流通している高級品を比較して良いのかと言う話になります。

titan__777 さんのコメント...

>労働生産性について復習しておこう。付加価値(=粗利益)を労働者人数×労働時間で割ったものとなる。
→労働時間は時間単位で計算されているのでしょうか。日本は韓国についで残業時間が多いという統計もあるようで、これを考慮しないと、残業してでも仕事したほうが生産性が高いとなって、微妙な結果になるような。。

uncorrelated さんのコメント...

>>titan__777 さん
OECD Statisticsなどの労働日数の定義などを見ると、8時間1日単位になっていると思います。ゆえに通常は、残業も考慮される事になります。

titan__777 さんのコメント...

>ゆえに通常は、残業も考慮される事になります。
なるほど―。英国・ドイツよりも生産性高い統計結果があるとは意外でした。ご返信ありがとうございます!

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