2012年2月8日水曜日

誤解しようとされるFRBのインフレターゲティング

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経済学者を自称する池田信夫氏が『FOMCは「インフレターゲット」を設定したのか』と言うエントリーで、FRBがインフレターゲティングを導入していないと主張しているが、欧米メディアではInflation targetingを宣言したと明確に報道されており、疑問の余地は少ない。

1. FRBの目的はインフレ予想の下振れ防止

バーナンキ議長のスピーチを良く聞けば分かるが、中長期の政策目標をクリアにする事で、家計や企業の抱える不確実性を減らすと同時に、政策効果を高める事が目的だと明確に言っている。そして、インフレでもデフレでも困るので2%ぐらいを目標にするそうだ。日銀の「物価安定の理解」は1%以下と言うターゲットレートなので、インフレしか心配していない。また、デフレ対策として追加的な量的緩和を選択肢から排除していない(関連記事:FRBが目標インフレ率2%を宣言)。つまり、インフレ予想の下振れリスクを減らす為に、インフレ目標を宣言したと理解できる。

2. 一般のインフレターゲティングの基準には合致

確かに高橋洋一氏の主張していたインタゲは、「日本銀行に何をやらせるか、もしくはうまくできなかったときには日本銀行に責任を取らせる仕組み」と言うものであったので、その基準で言えば、法的拘束力の無いFRBのインタゲはインタゲではない(関連記事:高橋洋一のインタゲはちょっと違う?)。ただし一般には「市場にきちっとした物価目標を提示することで、インフレ期待の安定と、金融市場の安定性を確保する」と説明されるので、インタゲだ。

3. 池田信夫氏のインフレは起こせない説はどこへ?

インフレ目標の設定でインフレを起こせるかについては議論があるが、池田信夫氏はいつの間にかインフレを起こせると思うようになったようだ。以下のように述べている。

たとえば日銀が「コアCPIが1%になるまで長期国債を無限に買い続ける」と宣言すれば、インフレを起こすことは可能だろう。

2010年08月17日の「デフレの罠」では以下のように述べていたので心替わりがあったのかも知れない。

日銀が「インフレにするぞ」と宣言してインフレ予想を起こし、実質金利(名目金利-予想インフレ率)をマイナスにしようというのがクルーグマンの提案だが、そういう政策の実効性は疑わしく、

池田信夫氏はインフレターゲティングやリフレ政策でインフレ率を操作できないことは繰り返し述べていて、2009年12月23日の「日銀はインフレ予想をコントロールできるか*」でも以下のように述べていた。

日銀がインフレ予想をコントロールできるという理論的根拠はなく、実際にも量的緩和の効果は限定的だった。

4. インフレターゲティングを日本へ適用すると

心替わりを責めてもはじまらないが、まだ理解が不十分な所があるようだ。

しかし、たとえば日銀が長期国債の保有残高を200兆円増やすと、1%の金利上昇で10兆円近い評価損が出る。

まず、インフレターゲティングとリフレーション政策は別物なので、目標インフレ率を宣言する事で期待インフレ率が操作できるのであれば、日銀の長期国債の保有残高は増えない。また、長期国債の保有残高を平行して増やしたとしても、それが国債である限りは日銀の「評価損」は問題にならない。国債を満期まで保有すれば、絶対に損はしないからだ。予想外のインフレを止めるために市中の日銀券を回収する事にならないと、ロスが問題になる事はない(関連記事:日銀がリフレーション政策を嫌がる理由)。

5. 米国経済の今後が注目される

何はともあれ米国経済だけに、インフレターゲティングの有効性の評価に決着がつくことになる。米国の景気は回復基調にあり、日本と異なり労働人口の増加も見込まれる。そういう意味では、期待インフレ率の低下で経済が停滞するのを防ぐだけで良いわけで、日本よりは機能する可能性は高い。ただしクルッグマンは目標インフレ率は2%では不十分で、4%から5%にするべきだと主張している。下振れリスクはまだあるようだ。

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