2012年2月25日土曜日

日銀の量的緩和は円安を誘導できるか?

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

2月14日の日本銀行金融政策決定会合で、「中長期的な物価安定の目途」と量的緩和の拡大(10兆円程度の資産買入等の基金の増額)が発表された。

従来政策との大きな違いは無いとの指摘もあるが、概ね金融政策が転換されたと理解されているようだ。それで円安が発生したと言う“俗論”があるのだが、真偽はともかく信憑性が低い話になっている。

1. 量的緩和の宣言前に為替レートが変化

何時から円安になったかと言うと、下図の通りドルもユーロも円に対して値上がりしているのは、2月1日からだ。日銀の量的緩和を予測して、市場が先に円売りを行ったと説明したくなるかも知れないが、長期金利に大きな変動は無い。

追記(2012/02/26 19:47):コメントで2月3日の米雇用統計の発表後に円安傾向が確定したと言う指摘があり、確かに2月1日~2日の円ドル相場に大きな動きは無く、2月3日以降に円安傾向が見られる(Bloomberg)。

2. デフレ脱却期待や貿易収支は円安を説明しない

デフレ脱却期待も、景気回復期待は投資収益率の上昇をもたらすので、円高傾向だと考える方が妥当に思える。景気回復による投資拡大は、貿易収支を悪化させる要因があるわけだが、近年の米国やEUを見ている限りは、貿易収支の状態は為替レートに対して影響力を持たない。1月の貿易収支の大きな赤字が為替レートに影響を与えたかも、議論が別れるところであろう。

3. インフレ率の変化は為替レートを説明してこなかった

日銀の政策転換を予想し、インフレ期待が高まり、購買力平価による影響で円安になったと説明する事はできる。しかし、PPPで説明すると1ドル106円(PPPGDP)~122円(PPPPRC)程度(OECD)であろうから、現状の為替レートを良く説明しているわけではない。リーマンショック前は米国はインフレ、日本はデフレであったが、円安傾向で推移していた。80円前後の為替レートは他の“何か”で決定されているようだ。

4. 米国やEUの期待収益率の変化が為替レートを説明する

“何か”とは何か? ─ 概ね米国やEUの景気見通しの改善であろう。米国のS&P500NASDAQ総合指数は、年明けから堅調に上昇を続けている。欧州のFTSE 300EURO STOXX 50も同様だ。つまり量的緩和が円安を誘導できたと考えるべき、十分な理由は無い。

5. 日銀は為替レートを操作できない

今後の傾向はもちろん予想がつかない、つまり予想ができれば金持ちになれるわけだが、占いレベルでも不透明感は強いようだ。大西(2011)は「米国の長期金利が高水準であると、円安ドル高となる傾向が明確」と指摘していたが、まだ長期金利が上昇する傾向があるわけでもなく、欧州の株式市場も一方的に調子が良いわけでもない。

結局、円安を望む人は米国や欧州の景気回復を祈るしかないようだ。日銀の金融政策の効果が無い事に納得がいかないの人も多いようだが、“流動性の罠”とはこのようなものだと考えられている。スイスのように防衛為替レートを宣言した上で、日銀が為替市場に介入を行えば状況が変わる可能性は大きいが、外交的にそれが許されるとも思えない。

0 コメント:

コメントを投稿