2012年2月21日火曜日

特殊出生率の引き上げ方

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周知の事だが日本経済にはデフレや円高よりも大きな問題がある。労働人口の減少だ。古典的な経済モデル(ソロー・モデル)で考えれば、労働人口が減少すると一時的には労働生産性が伸びるが、老人は貯蓄を消費に転嫁するため資本蓄積も低下し、さらに全体として経済成長率は低下してしまう。

一人あたりの生産量が増えていけば良いように思うが、年金や政府債務を考えるとそうも言っていられない。問題解決の方法は大きく二つある。(1)労働者が死ぬまで働く。(2)人口を増やしてしまう。(2)が可能かを考察してみよう。

1. 女性の社会進出だけが特殊出生率を決定していない

女性の社会的地位向上による影響で、少子化が進んでいると言う主張がある。女性の社会進出で婚期が遅れ、またキャリア上の不利になるので出生数が減少していると言うような説明だ。ある程度の説得力を持つが、日本よりも女性の社会進出が進んだ国でも、日本よりは婚期が早く、出生率が高いケースが多い。

以下はWorld Population Prospects: The 2008 RevisionWikipedia - Age at first marriageGender Inequality Index 2011から編集した表だが、女性の社会進出が進んでいない一方で、特殊出生率が低い事が分かる。ドイツ、イタリアも同じ傾向があるのだが、米国、英国、フランス等と比較すると、女性の社会進出では説明がつかない特殊出生率だ。

特殊出生率と女性の社会進出
日本 米国 英国 ドイツ 仏国 カナダ 伊国
特殊出生率 1.3 2.1 1.8 1.3 1.9 1.6 1.4
女性初婚年齢 28.8 26.5 28.5 30.0 29.6 28.5 29.7
労働参加率
(%, 男性比)
66.7 81.2 79.6 79.5 81.2 85.9 63.4
大学進学率
(%, 男性比)
97.2 100.8 101.5 98.4 94.1 99.6 85.9

追記(2012/02/22 21:00):平成17年版少子化社会白書では、2000年のデータでOECD加盟24カ国の女性労働力率と出生率は正の相関があると指摘している。つまり先進国では女性の社会進出が進んでいるほど、特殊出生率が高い傾向がある。

2. 出産・育児のための結婚

社会進出の割に初婚年齢が遅めなのはともかく、初婚年齢に大差がなければ、特殊出生率に影響が無いと考えるかも知れない。しかし、初婚年齢と出産年齢はもはや相関するものではないらしい。米国研究製薬工業協会によると、未婚出産の比率は、米国が40%、フランス50%、英国44%、ドイツ30%、カナダ30%、イタリア21%となっている。日本は僅か2%だ。New York Times誌も、米国の30歳未満の母親の大半が婚外子を産んでいると報じている。

未婚出産の比率
日本 米国 英国 ドイツ フランス カナダ イタリア
2% 40% 44% 30% 50% 30% 21%

英国やフランスは社会保障が充実しているので、未婚の母でも育児が比較的容易だ。日本は母子家庭の貧困率はOECD加盟国中、もっとも高い。母親の就業率が高い事を加味すると、社会保障制度が最も貧弱と言える。日本は母親が就業している状態で貧困に陥る可能性が圧倒的に高い(平成22年版 男女共同参画白書 - 第1部 第5章)。男女共同参画白書の以下の図は、日本の「有業のひとり親」の貧困率がずば抜けて高い事を示している。

貧困に陥る事が明白なのであれば、未婚の母になる事は避ける傾向が強くなる。日本の未婚出産率が2%であるのは、合理的な判断の結果だと言える。

3. 経済成長率の逓減と非婚化

結婚後に出産・育児を行わないと、女性は貧困に陥りやすい。しかし、高度成長期後に産まれた“伝統的な結婚”と言うプロセスは、高コストだ。

最近は「結婚する夫婦の約半分しか、結婚式を挙げていない」と推測されるが、配偶者に結婚式を諦めさせることのできない潜在数は相当いると考えられる。バブル後の所得の伸びが少ない状況では、高コストな結婚に踏み切る事がためらわれていると言う指摘がある(日本経済研究センター)。

4. 自由恋愛と婚姻率低下の関係

恋愛経験数や性交渉数のアンケート調査を見ていると、恋愛する機会が無いわけではないようだ(OZmall)。しかし、それらは必ずしも結婚に結びつかない。これは見合い結婚の比率の低下とともに、生涯未婚率が上昇している事からも観測され、自由恋愛が結婚に終着しない傾向が見て取れる(恋愛結婚とお見合い~お見合いの減少と問題点)。恋愛の自由が保障された現代では、結婚に到達する確率は低くならざるをえないようだ。

5. 未婚の母が一般的になったら、出生率は大きく上がる

20~34歳の女性の中絶件数は2008年度で17万件あって、暗数を加えると約3倍の51万件程度になると予想される(平成20年度保健・衛生行政業務報告)。胎児の先天的異常で中絶されるケースは10年間で1万1706件と僅かで、暴行事件の被害者が中絶するケースも118件と多くは無い。未婚女性の場合は婚前であること、既婚女性の場合は「産みたくない妊娠」(不倫等?)、そして未婚・既婚ともに経済的理由が強いようだ(人工妊娠中絶の問題)。出生数は約100万人である事から、これらの主要な中絶事由を排除できれば、特殊出生率を1.5倍、つまり2.0弱まで引き上げる事が可能かも知れない。

6. 少子化対策として出来ること

大学進学率はともかく労働参加率の低さから、日本の女性の結婚指向は比較的強いものだと想像される(関連記事:可能ならば働きたい、可能ならば専業主婦)。しかし、女性たちが望むような結婚相手の男性は十分に供給されていないため、結婚後に出産・育児を行うと言う人生プランを実現するのは難しい状況になっているようだ。理想の男性を求めて恋愛を繰り返すうちに、出産適齢期を逃す女性も増加している。

お見合い結婚を増やして、(起源が最近である可能性の高い)“伝統的家族観”を維持しようとしても、それは女性の権利が約束されている現代社会では難しいであろう。自民党には気の毒だが、「有業のひとり親」を支援して、未婚の母でも十分に生活していける体制を作る方が現実的だ。もちろん労働者が死ぬまで働く社会を構築する事も可能だし、そちらも現実的な選択肢かも知れない。

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