2011年12月16日金曜日

女性がフリーターになりやすいのは差別のせい?

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太郎丸(2007)「若手正規雇用・無業とジェンダー ─ 性別分業意識が女性をフリーターにするのか? ─」ソシオロジ, Vol.52(1), pp.37--51が、社会学者キャサリン・ハキムの選好理論を人的資本論を根拠に拡張し、結婚後に専業主婦やパートタイマーを志向している女性は職業経験が不要なので、結婚前はフリーターを志向すると言う「性別分業仮説」を立てて計量分析を行っている。

分析結果で仮説が確認されなかった事から、太郎丸(2007)は「フリーター率は女性のほうが高いが、それは女性が労働市場や職場や私的な領域でさまざまな差別をこうむっているからだ」と説明している。この分析、試みは高く評価できるのであるが、論文内で述べられているサンプリング・バイアス等以上の弱点が計量分析にあって、分析結果には大きく疑義が残る。

上は太郎丸論文の核となる推定結果の転載で、確かに「専業主婦(希望)」がモデル3、4で有意性が無いが、以下のような問題点がある。

  1. マッチング機会: 専業主婦希望者はフリーターになってはいけない。専業主婦になるためには、収入の良い男性と出会う必要がある。つまりマッチングに適した環境に進出する必要があるので、優良企業に就職した方が良い出会いの可能性が高い。女性のフリーターも、結婚・出産年齢が高くなる事を酒井・樋口(2004)は指摘している。
  2. 結婚によるサンプル離脱: 既婚女性がサンプルから除外されているため、フリーターの女性が念願通り(?)に早々に結婚した場合はサンプルから除外される(表4の専業主婦は、専業主婦希望者を意味する)。実際、サンプルの年齢は18~34歳と幅が広く、若年層の方がフリーター率が高いので、結婚離脱バイアスがある可能性が高い。
  3. 多重共線性: 低年齢層に専業主婦・一時中断が多く、高年齢層に仕事継続の希望が多い。これは表3、表5から確認できる。表4モデル1と2で専業主婦希望者が有意にフリーターになりやすい傾向が確認されていたのに、モデル3と4で有意性が消えたのは、多重共線性が影響している可能性がある。
  4. グルーピング: 結婚後の希望が「専業主婦」と「一時中断」のグループの結婚前の行動は似通って来るはずなので、推定の頑強性をテストするために「仕事継続」以外でまとめて推定をかける必要があるであろう。
  5. 厳密には有意性が無いのは仮説を肯定できない事を意味し、仮説を否定できるわけではない(関連記事:「統計学的に安全」とは言えない)。

マッチング機会の問題は仮説自体を破壊してしまうが、結婚によるサンプル離脱や多重共線性の問題は18~25歳/26~29歳/30~34歳でサンプルを分けて推定を行うか、年齢層ダミーに専業主婦ダミーのクロス項を入れれば、その影響程度を見る事ができるであろう。太郎丸(2007)の計量分析は改良の余地があるし、解釈には飛躍がある。

全般として酷評しているが、希望ライフコースと就労状況の因果関係を測るのは容易ではない。理論社会学者の何かの前提を当然とされた議論よりは、ずっと価値のあるように感じられる。もう少し精緻化すれば、男女格差是正政策に影響を与える研究になるのかも知れない。

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